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リサコラム
連載484回
      本日のオードブル

私が目覚める場所

第12話

「難攻不落のスイート」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ドーム型の
白い漆喰の天井
白い石張りの壁
白い石張りの床
白は濃厚な色を
持っていると
思います。
白という。
だから、
無地と
呼ばれるとちょっと違うと思うのです。
無地にも厳密には色がありますし。
しかもどんな色にも合い
どんな色とも交じり合い
調和させます。
だから白という色に
無限の力を感じるのです。
淡いブルーで螺旋のパターンを描く
白い絨毯には水が流れているように見えます。
白がなければ決して水の流れには見ええないのにです。


 
      
  





      

第12話 「難攻不落のスイート」


  「さあ、こちらへどうぞ」


             


 にこやかな笑みのラベンダーの支配人は、玄関先でトリルを出迎えた後、鉄枠の入

った重たげなドアをトリルのために押さえて先に入らせた。


            


 「ありがとうございます」トリルは歯切れよく答えた。ふたりは絨毯を敷き詰めた

ホテルの廊下に優雅な足跡を残しながらゆっくり歩いた。


           


 そして上までストンと抜けている吹き抜けの螺旋階段の前に来ると、ラベンダーの

支配人は「この上です」とだけ言って、先にすたすたと上り始めた。トリルも装飾を

施した幅の広い優雅な螺旋階段を同じ調子で上り始めた。


            


 8階くらいまでやってくるとトリルは少しふらついてきた。階段を上らされるのだ

ったら、こんなヒールを履いてくるんじゃなかったと思い、ヒールを脱ぐと、ちらっ

と階段の脇を見た。不思議な溝が掘ってある。ラベンダーの支配人はかすかにパンプ

スが絨毯をきしませる音をたてながら変わらない歩幅を維持してどんどん先を上って

行く。


            


 「あの~、まだ上でしょうか?」トリルは見上げながら足を止めると「ええ、もう

少し」とラベンダーの支配人の清々しい声は下のトリルに届いた。ラベンダーの支配

人とトリルの間は少し開き始めた。


            


 「さあ、着きました。こちらです」ラベンダーの支配人が後ろを振り向いた時、ト

リルは約1階分下にいた。結局、最上階まで登ってきたことになる。切れがちな息の

合間に「ああ、はい、いますぐに」とやっとトリルが答えるとラベンダーの支配人は

「ゆっくりで結構ですよ」と答えた。それから廊下を右に曲がると、窓のある廊下か

ら外の街並を眺めながら、また右に曲がり、黒い石を貼ったドアを押し開けた。


             


 「さあ、どうぞ」ラベンダーの支配人はドアを開けるとトリルを中に入れた。まだ

落ち着かないトリルは目をしばたたかせた。床も壁もソファも全部まっ白い。「例え

て言えば、白亜のパレスだな」とトリルはすぐにキャッチを考え始めた。トリルがメ

モを執り出すと、「いかがでしょう?」とラベンダーの支配人が口を開いた。


            


 「すばらしいです。それに」「それに?」「ええ、まばゆいくらいに美しいです」

とトリルが言うと、ラベンダーの支配人は「光栄です」と頭を下げ、「さあ、もっと

中へどうぞ」とトリルを案内した。「ここは最高級のスイートで、『ラベンダーパレ

ス』という名を付けています。お恥ずかしながら、わたしのニックネームを取ったも

のですが、しかし、」支配人はそこまで言うと、「まだ未公開の出来立ての最上級の

お部屋ですし、今日、トリルさんが初めてのご訪問者ということになります。他社様

にはお見せしていないお部屋ですから」と優雅な釘を刺した。「それは重々わかって

おります」トリルは慌てて答えた。「それにトリルさんの文章力を評価してのことで

すから」「ええ、私こそ、光栄に存じます」とトリルはすぐに返した。そしてラベン

ダーの支配人は壁と床の反射し合うまばゆい白い光に目が慣れてきたところで、ベッ

ドルームへ案内した。


            


 「キングサイズのベッドはマットレスから開発いたしました完全オリジナルとだけ

申しておきます。ベッドリネンの仕様に付きましても企業秘密でございますので、こ

こでは、『絹糸のような極細番手の綿糸で織った最高級の肌触りのリネン』とだけ書

いてくださいますか?当然ですが、ベッドパッドも最高レベルのピュアニューウール

を使っております。そして、寝具、ピローその他、ベッドリネンも含め、すべては一

度しか使いません。つまり、洗濯して次にこのお部屋にご宿泊される別のお客様が使

われることはございません」「は~、ということはつまり、それらは下の階のお部屋

にゆくと、そういうわけですね?」ラベンダーの支配人は無言で長い睫を1回だけ閉

じて、ゆっくり開けた。トリルは言葉を探しながら、やっと「最高レベルとは、そう

いうことなのですね」とだけ言った。


            


 「それに、もしもベッドリネン、寝具一式をお気に召して、譲って欲しいとおっし

ゃる場合には、すべてクリーニングして無償にて、」とラベンダーの支配人は言い始

めた。「無償?」「ええ、そうです」トリルはメモ帳から目を上げた。「そんなこと

が?」「ええ。最高レベルなものですから」「は~、無償で、ですか」ラベンダ

ーの支配人はうなずくと、大理石の床の上を音をたてずにさらに奥へと案内した。


            


 「こちらがプライベートプールです。温度も調整できますし、24時間お好みの時

に気持ちよく泳いでいただけるように今できる最高の技術で水質の管理をやっており

ます。向こうのソファのある場所はリゾートにあるガゼボをイメージしております」

「ああ、はい、はい。ガゼボのモダン進化形ってことですね、あの中でごろんと横に

なって水を眺めるだけでもいいからやってみたいです。それで、支配人、肝心のお値

段ですが


            


 「1週間以内、何日いらしても300万円です。かなりお安いと思いますよ」ラベ

ンダーの支配人は「お安い」の部分をさらりと言った。「1泊でも、1週間でも?」

「ええ」「すると最安値で1泊50万円ですね」トリルはメモに大きく、「300万

円、1泊50万円」と書いた。ラベンダーの支配人はちらっとトリルのメモを覗き込

むと「『寝具とベッドリネンも含む』と書いていただけますか?」と言った。「ああ

そうですね、わかりました」


            


 「それにここにはスタッフ用の非常用エレベーターはございますが、お客様には1

階から16階まで、お体に問題がなければ、このすばらしい螺旋階段を上っていただ

くのです。それにここまで登って来た螺旋階段はこのお部屋のために作ったものでご

ざいますので、どのお部屋にも通じておりません。この螺旋階段を上ること自体がエ

クスクルーシヴな体験の始まりということです」ラベンダーの支配人がそう言うと、

ぱっとスプレーでまき散らしたようなエクスクルーシヴな飛沫がトリルにも届いたよ

うに感じた。


            


 「なるほど、螺旋階段のエクササイズから始まるエクスクルーシヴな体験ってこと

ですね?」「その通りです。スタッフは同じフロアに常時待機しておりますし、屋上

にはヘリポートもございます。もしも不審な者が侵入しようとすれば、この螺旋階段

を16階まで登る必要がございます。すぐに警報が鳴りますでしょうけど」「ず

ばり『難攻不落の白亜のパレス』ってことですね」ラベンダーの支配人の言葉をトリ

ルが取った。すると今度はラベンダーの支配人が言った。「それそれ、そのコピー使

ってくださいね。それ、ステキだわ。『難攻不落の白亜のパレス』ね、変わったホテ

ルの部屋ならどんなことをしてでも泊まってみたい変わったホテルジャンキーな方、

あるいはこもって仕事をなさりたい作家さんに向くのではないかと思っております。

誰にも見つかりたくない方にもぜひ、泊まって頂きたいのです。あとはあなたの文章

力でセンセーショナルに私共の『難攻不落の白亜のパレス』の独占潜入レポ、お願い

しますね」「かしこまりました」トリルはそう言うと、ゆっくり時間をかけて部屋を

見た後、「それでは、ご期待に添えるように致します」と挨拶をしてから一緒に外に

出た。


            


 「トリルさん、もしかして、お気づきだったかしら?階段の脇の変わったスロープ

に?」とラベンダーの支配人が似つかわしくない意味深な笑みを送った。


 「もちろんですとも。私、寒冷地出身なもので、ぴんと来ました。『お帰りはリュ

ージュもOK』ってことですよね。最高ですね。私がこの部屋で一番気に入った部分

です」トリルはそう言うと、階段わきに設置された小さなそりに乗って滑り降りた。




   




   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


P.S.1
   「こんなホテルがあればいいな」と思うホテルのひとつです。
   ちょっと星新一風の、最後は、ブラックユーモアになってしまいました。

P.S.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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