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リサコラム
連載487回
      本日のオードブル

ある13日間

第3日

「オニセンの3日間」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


和モダン、
アジアンモダン
テイストに欠かせない色は
ブラウン、ベージュ、ゴールド
アイボリー、グレー。これらの色は必ず。
その上で、まずはこげ茶の絨毯を敷きつめ、
そこにゴールドとベージュの混じった
織り物で張りこんだ一人掛けの
アームチェアを2台とその間に
石目調のどっしりした
テーブルを置きます。
大胆なプリントか
刺繍のクッション
にはシルクが最適です。
ゴージャス感が出せます。
ベッドルームのリネンは真っ白が最適です。
他の色とのコントラストでより清潔に見えますから。
そしてバーカウンターには白い陶磁器。
グラスを点々と間を空けて置くことで
ハイソな感じが演出できます。
そしてここがポイントです。
額には「書」あるいは
今の画家が描いた
モダンな水墨画。
最先端を行って
いるよと言いたい
なら最先端の
モバイル機器で
いろんな操作ができるようにします。
横にはオーソドックスなおもてなしの心
ウエルカムフルーツを置きますと、オレンジや
グリーンの生き生きした色が新鮮な驚きをお客様に
与えられる事ができるのです。ホテルの部屋を作るのは
なんて楽しくてステキでそれにたやすいことでしょう!

 
      
  





      

第3日 「オニセンの3日間」



「え~、うっそ~?」まるこは椅子から飛び上がると内線の電話口で叫んだ。そ

れは、隣に座るコマダに伝わり、それからダルマに伝わった。週末からの連休を控

えた火曜日の午後6時、まるこの勤務するデザイン事務所のスタッフ6人はみんな

まるこ
の甲高い声に手を止めた。


             


 「まじ~?え~、そんな~いったいどうすればいいの~」事務所はコンビニの冷蔵

庫を開けた時のような冷気に包まれた。その時1階の受付のミチルは「私だってわ

からないけど、とにかくそういうことなので、それ以上は製作の方でよろしくってい

うことです」というと電話を切った。


 まるこは2階のスタッフ5人が注目する中「オノセンムが予算50万円で大至急

3階の部屋をホテルのスイートにしろってことです。金曜の夕方6時に海外からのお

客さんを連れてくるらしいわ」と尻すぼみに言いながら椅子に座った。


             


 「 “オニセン”らしい業務命令だね~実に」ダルマは笑い始めた。

 「もう少し詳しく聞かせてよ」コピー機の方で声が上がった。トウルだった。

るこ
は椅子から立ち上がると「オニセン、いえ、オノセンムは、連休に海外からの

お客様を接待されるそうで、ホテルを探したけれど、連休だからどこもいっぱいで

『“この際”3階の未完成のゲストルームをホテルの部屋に変えて私たちの実力を

見せつけろ』とそんなお達しをなさったそうです」


 まるこは“この際”を強調した。すると、「ひゅ~」と指笛を鳴らしたスタッフ

がいた。ハナルだった。


 「“この際”?ってどういうこと?」トウルが疑問を投げかけると、すぐにミク

リヤ
は、「“この際”とは、『今のこの時、こういう時』と言う意味で使うようで

す」とネットの検索結果を読み上げた。


             


 まるこは続けた。「つまり、海外のお客様が連休前の金曜の晩に来社され、その

日は事務所の3階でご一泊された後、翌日からオノセンムが温泉に連れて行かれる

とのことです。3階のゲストルームはご存知の通り、未完成のままになっており」

まるこ
の声は尻すぼみになったかと思うと、息を切らしたマラソンランナーがイン

タビューに答えているかのように大げさに息を吸い込んでから言った。「つまり、


“この際”4年半間保留していた『未完成のゲストルームを完成させる』とのこと

のようです」と言うと、どさっと回転椅子に座った。まるこの椅子はするっとすべ

り、隣のワタルの椅子にぶつかった。ワタルは「僕らがね」と付け足すと、ダルマ

は「まるこ、こまる、まるこ、こまる」と冷やかし始めた。


 その時、事務所の一番隅の席に座るスミオが「あの...うち、」と言いかけた。

しかし、その自信のない声は他の6人のざわめきに覆いかぶされた。


             


 週末から3連休を前にした火曜の午後6時、金曜までに仕事を片付けようと追い込

みに入ったスタッフのきびきびした盛り上がりは唐突に下された“お達し”によりど

んよりした焦燥感に変わろうとしていた。その転がり落ちる雰囲気を足で止めたのは

コダマだった。


 コダマは足の下でじっとボールを押さえたような真剣な顔でスタッフを見渡すと

「“この際”って、結局、何としてでもやれってことでしょ」とパスをする相手を

探した。「なら、やるしかないんじゃないの?」ワタルはやや剣のあるしかし、や

る気の抜けた声で応戦した。


             


 「“何としてでも”とは『あらゆる手段を尽くしてでも』と言う意味です」とま

ミクリヤがネット検索を読み上げた。コダマはそれを無視して、「他に、オノセ

ンム
は何か言われていたの?そのお客様の好みとか、何とか?」とまるこの方を向

いた。まるこは首を振った。「ミチルによれば、その方はフランスの方で、ゴージ

ャスなホテルはたくさんご経験なさっておられるだろうからシンプルなアジアンモ

ダン、ジャパニーズモダンテイストの方が受けるかもとミチル自身の意見も入っ

ているみたいだけど、実際はおせっかい好きなオノセンムが別件で来られたその

お客様をうちにも引っ張って来て自慢のゲストルームを見せたいってことじゃない

かな?それを今後の仕事につなげようって意図だと思います」と付け加えた。


 「あのうち、」スミオが先ほどよりは大きな声で言ってみるとやっとスタッフ

6人はスミオの方に視線を向けた。「実家が、老舗旅館をやってまして、海外のお

客様も時々もてなしているみたいですから、なんか聞けるかもしれません」


             


 「お~!スミオ君、隅に置けないね~、こんなときこそ、出番だよ!」ハナル

笑いながらそう言うと、トウルスミオに顎だけで電話するように指示を出した。

スミオ
は遠慮気味に廊下に出て電話を始めた。「スミオの助けもいいけどさ、議論

してる場合じゃないでしょ。行動あるのみじゃないの!」コダマは図面を持って廊

下に飛んで行くと、階段を3段跳びで3階に駆け上がった。その間に戻ってきた

ミオ
は、「50万円の予算では、家具を入れたら終わりで、ベッドルームまではど

うかなと」と申し訳なさそうな声を出した。「ほら、そうだと思ったよ、そんな

予算じゃ無理に決まってるよ。オニセンはムチァだからな~断るってのも一つのア

イデアだと思うけどね」ダルマはそう言った後、マウスを動かして始めた。


 2,3分停滞した雰囲気が流れた後、スミオのケイタイが鳴った。「ああ、うん

あっ、うん、うん、は~、うん、わかった。ああ、は~うん、OK」聞き耳をたてた

スミオの言葉を解読できなかった5人はスミオが電話を切るのを待った。


             


 「あの、実家が旅館やってるんで、」「それはさっき聞いた!」ハナルは椅子の

上で伸びをした。「すみません。それで、貴賓室の、わりに新しいブランドのテー

ブルセットなら、格安で譲ってくれるそうなんですが、それで」「うわ~ほんと?

ほんと、いいの~?スミちゃん!」まるこが叫んだ。スミオはいつも目立たない子

供がこの時ばかりは注目の的になって、うれし恥ずかしの面もちで続けた。「ちょ

うど貴賓室を普通の部屋に変えて部屋数を増やすことになってたらしく、タイミン

グよかったみたいです。テーブルとイスは明後日の朝一番にここに運び込んでくれ

るそうです。ついでに備品もタダで譲ってくれるそうです」「すごい!スミちゃん

こんな時に頼りになるね~見直したよ!」ダルマスミオの背中をドンと叩いた。


             


 戻って来たコダマはすぐに、ハナルに実測図を手渡すとハナルはその家具をネッ

トで調べた。「なんかよさそうだね。リージェントぽい雰囲気なんじゃない!」

ナル
スミオの方を見ると、ニコリと笑ってから家具の寸法を図面に落とした。


 「バーカウンターとベッド周りは任せて!私達でホテルみたいなデコレーション

にするから!」まるこミクリヤの方を見て目配せをした。ミクリヤも眉を上げて

OK
の意志を示した。コダマはそれからすぐに分担表を作り、誰に言われるともなく

現場監督の役を買って出た。寝る時間も含んでたった72時間しかなかった。


             


 突貫工事的な72時間で家具、照明、ベッドが入り、きちんとメイキングされ、

バーカウンターには品のいい調度品が、テーブルにはiPadとウエルカムフルーツが

並ぶと、窓にシェードのみがかかった殺風景だった部屋はアジアンモダンなホテル

のスイートに生まれ変わった。


             


 「なんか、寂しくない?この壁ぇ~」まるこはリビングとベッドルームを仕切る

壁の前に立って両人差し指を左右に振っていた。その回りの数人もメトロノームの

ように動くその指の先の壁を見た。「確かに。なんか絵とか欲しいよね」「スミオ

君に絵もお願いすればよかったんじゃない?」ミクリヤが言うと、まるこは、「そ

れじゃ、私たちの作品ではなくなるじゃない~」そう言った後何かを思いついたよ

うに急いで1階に下りて行った。


 しばらく経って戻って来たまるこの両手には、社屋のパノラマ写真の入った横長

の額が3枚あった。エレベーターホールから外してきたらしい。その後ろからミチ

が付き従って来た。「え~、こんなの~」ミクリヤの第一声にまるこは、にやっ

と笑った。そして額縁から外すと、「さあ、皆さま、最後の助っ人をお連れしまし

た!とくとご覧くださいませ~!」と言いながら手を振って残りのスタッフをリビ

ングのテーブル周りに集めると、ミチルは持って来た筆ペンでさらさらと巻紙に文

字を書いた。


             


 「うぉ~!すげ~!」ワタルが叫ぶと、「ミチルちゃん、書のたしなみがあるの

ね」とミクリヤが感嘆し、見守っていた他のスタッフもそれぞれ歓声を上げた。

るこ
は額をタテにしてミチルの書を入れると、リビングの壁2か所とベッドの後ろ

の壁に掛けた。


 そして、午後4時過ぎ、ゲストルームはやっと間に合って完成した。


             


 午後6時ちょうどに玄関にオノセンムが現れたとまるこに内線電話が入った。

まるこ
コダマは急いで3階のゲストルームの玄関の前で待機した。


 現れたオノセンムは「お~、君たちの作品を拝見できるのかね。うれしいね~」

といつも通りの朗らかな大声で二人の出迎えを受けると、どんどん部屋の中に入り

感嘆の声を上げた。


             


 「君らもやればできるんだ!」オノセンムミチルの書の前に立った。「実に素

晴らしい出来栄えだ。これぞまさしくチームワークの勝利だね!」まるこはきょろ

きょろした。「あの、専務、お客様はどちらに?」オノセンムはそれには答えず、

「しかし、これが新入社員募集用のビデオ撮りのためだって言ったら、君らは3日

間でやれたかな~」オノセンムはじっと書を見つめたがまるこコダマの二人は唖

然としてオノセンムの背中を眺めた。


 「私の発案もなかなか愛嬌があると思わないか?素人のこの書みたいにね。

これはいい。じつに愛嬌があるよ。それに最高にわくわくする3日間だったね~」




   




   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


p.s.1
    ホテルみたいな部屋を考えること。これより好きなことがまだ見つかりません。

p.s.2 今日は登場人物が9人です。混乱を避けるために、名前の色分けをしました。
   私自身のためにも。そしていつもより300~500文字ほど長いです。


p.s.3
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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