MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載499回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第2話

「17歳のYと
Cの運命の出会い」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


前から
エキゾチックな
というのはどんなものか
まるでわかりませんでした。
部屋には白とオレンジ色のタイルの
向こうにマジョレルブルーという
青の花瓶に活けられた
草花の絵を描き、
同じ青の2脚の
肘掛椅子を置き
緑、青、タイルの
オレンジの植物柄の
パンツスーツを
モデルに着せて
立たせました。
食べられるのを
避けるために
姿かたちを
自在に変える動物のように。
エキゾチックとはもしかしてそんな感じの
するものではないかと私は考えるのです。

 
      
  





       

第2話 「17歳のYとCの運命の出会い」


  

「もう行かなくちゃ、それじゃ、くれぐれも体に気を付けて、元気でね」

大通りの交差する人ごみの中で若い男性の横に立った上品な中年の女性は静かに言

った。


              


 若い男性Yは目に涙をためながらも、それをこぼさないように必死にこらえて

「わかった」と一言言った。


              



 「精一杯、がんばりなさい。あなたの才能を大きく花開かせるにはここがあなた

の本当の故郷になるのだから。まじめにちゃんと勉強することよ」「うん。わかっ

た。それじゃ」Yはそれだけ答えると振り返らずにすたすたと街路樹の通りを歩い

て行った。女性はYの母親だった。


              


 この日から、17歳のY は母と離れ、パリでひとり暮らしをすることになった。

母は雑踏の中で息子の背中を見失うまでじっと目を凝らして立っていた。やがて見

分けがつかなくなると、静かにハンカチを目に当てて、ドレスの裾を翻した。


              



 日は少し西に傾きかけ、通りはすれ違うのもやっとなほどにいろんな人種の人々

で込み合い始めていた。Yは時折、その混雑の中で体を斜めにしながらも手の平で

涙をぬぐうと、高級な匂いのする通りを不安と恐怖をいっぱいに腕の中に抱えて歩

き続けた。


              


 初めてこの地にやって来た時、Yの育った場所とはまるで違う近代的な街並にY

はとても驚いた。どの通りもまるで宝石箱の中に入ったように煌びやかで優美なも

のに満ち溢れていた。自分がこれから活躍する場所はここにあるのだと、夢のよう

な期待に満ちてはいたものの、母と別れた途端、それまでの思いも燃え尽きる寸前

のキャンドルの最後の小さな炎のように思えた。


              


 夏の終わりにも関わらず、高いビルに阻まれて少しひんやりとするハイソな通り

には美しいショーウインドウに満ち溢れるドレス、豊富な品物、高価なジュエリー

がきらめきの束となって、店の少し奥まったところから、ぴかっとYの目を射るよ

うに光った。


              


 その時バタンと大きな音がしてYは大きくよろめいた。店から出て来た中年の男

性と出合い頭にYはぶつかったのだ。その時、Yの持っていたバッグは吹き飛ばさ

れるように宙に舞った。


 「ああ」力なく叫ぶYに男性は無遠慮な態度で悪態をつくと、そのまま立ち去っ

た。Yのカバンからばらまかれた紙はそのまま地面に散乱した。


              


 「大丈夫ですか?」斜め前から歩いて来た若い男性は声をかけたものの、そのま

ま通り過ぎて行った。そしてYが慌てて紙を拾い始めるとひとりの女性がYの肩を

軽くたたいた。その手には、数枚の紙が握られていた。「ああ、どうも」Yは答え

ると、女性はにっこり笑って紙の束をYに手渡し、足早に立ち去った。


              


 その一部始終を向こう側からじっと見ていた男性Cがいた。CYのおどおどした

小鹿のような様子を滑稽に思った。道行く人の中には散らばった紙数枚を拾ってY

に手渡す人もいたが、大半の人は踏まないようによけて歩くか、あるいは目指す方

向にある紙の上をそのまま歩くだけだった。


              


 年齢は20歳には全然届いていないだろう。こけた頬に神経質そうな細い指が

ぶるぶる震えるように紙の束を拾い集めながら、ぴょこぴょこと飛ぶように歩く姿

はまるでコメディ映画のロケのようだと思わず吹き出しそうになりながらCはじっ

と様子を見守り続けた。

              


 そしてCは足元の数枚を拾い上げると手渡そうとして、一瞬ためらった。Cは青

い線で描かれた女性の絵を1枚ポケットに突っ込むと、残りをYに手渡した。Y

おどおどと礼を言い、残りをかき集めてカバンに突っ込むと、小走りに去って行っ

た。


              


 Cはしばらくそのまま高級ブティックの並ぶ通りを歩き、1軒のホテルに入った。

そしてラウンジでコーヒーを注文した後、ポケットから先程の紙を取り出した。そ

れをじっと眺めてから電話をかけに電話室に入った。


 「ああ、私だが、さっき、通りで面白いものを拾ったんだがね、もしや、おたく

に細面の痩せた17,8の男がいるなら、紹介してくれないかなと思ってねうん

そうそう、でも、あれはパリジャンじゃないな、きっとアルジェかどっかの田舎か

ら出て来たって感じだね。名前?そんなのわからないよ。ショーウインドウに

見とれてて、人にぶつかって、そこら中にデザイン画をばらまいてしまったんだか

らね。それが相当な枚数で、その中の1枚を失敬してしまったけどもしも君のと

ころにそんな風貌のおどおどした子が入って来たら、きっとその子に間違いないか

...うん、将来、有望なデザイナーになるかもしれないと思ってね。それに、近

い将来、うちで役に立つかもしれないからね。それじゃ、その時はどうかよろし

く」Cは電話を終えるとテーブルに戻り、またデザイン画をじっと眺めてから、ポ

ケットからペンを取り出すと、その絵に新たな線を数本書き加えた。

              

 Cには先を見通す目があることを自分でもよくわかっていた。それは千里眼と言

われ、その眼力のために、これまでオート・クチュールの世界で王者の名をほしい

ままにしてきたのだから。

 怖いものなしのその時のCには、Y がこの業界のデザイン学校に入学し、在学中

にコンクールで賞を取ることくらいはおそらく予測できたのだろう。


              


 しかし、そのわずか3年後、C自身は休暇先のイタリアで急逝し、その後、C

オート・クチュールのメゾンを背負って、若干21歳のこのおどおどしたYが主任

デザイナーになってCの代わりにショーで大成功を収めることまでは予測できてい

なかっただろう。そして、瞬く間にCの玉座を奪い取ることも。


 さらにモロッコのマラケシュでエキゾチックな庭園と、さらに壮麗な別荘を手に

入れ、そこで数々のインスピレーションを得てコレクションで発表し、時代の寵児

になることも。


              


 その後、著名なアーティストの芸術作品に溢れた美術館のようなパリとマラケシ

ュの二つの家で酒やドラッグに溺れながらも作品を作り続けることもCには予測は

できなかったはずだ。


 そして50年後、YSLであることに苦悩し続けたシャイな王者人生に幕を下ろす

ことになるなど、このおどおどして痩せこけたYからはその時、想像もつかなかっ

たに違いない。

              


 Cはデザイン画のモデルの足元に大きく、“C. Dior”とサインをするとまたポ

ケットに入れてホテルの中に消えた。




   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


p.s.1
     新しいシリーズはどうやら、モード関係のようでと思われた方、でも、
    先はまだわかりません。私にも。
     やはり敬愛するイヴ・サン・ローランのパロディです。当時フランス領だった
    アルジェリアで生まれ、17歳でパリのモード学校に入ったイヴがパリの通りで
    偶然にもクリスチャン・ディオールに出会ったという架空のストーリーです。
     その後の物語は実話に基づいています。
    TVで イヴ・サン・ローランのドキュメンタリーを見て、YSLというアイコンを
    守り続けた壮絶な人生の戦いを知り非常に感動しました。筋金入りのシャイで
    神経過敏な一人のデザイナーが、世界のアイコンとなった成功ストーリーなのに、
    それをこんな短い文章でまとめられるかと思うと、人の一生とは表面上では
    ほんとうに伺い知れるものではないことを思い知らされます。原文の資料も読み、
    自分なりにいろいろと調べて行くうち、だんだんと実像に迫れるようになって、
    やっとイヴ・サン・ローランのことを書いていいような気がしたのです。
    しかし、もちろん、何も知っているわけではありません。

    ミニミニエッセイ「リサコラム もの、こと、ほん」もご愛読ありがとうございます。
    ささやかなティブレイクになれば幸いでございます。


p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.