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リサコラム
連載500回
      本日のオードブル

来のわたし
一番
きなかたち

第3話

「オードリー、
    50年前に」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


ジバンシー氏デザインの
ブルーオーガンジーのドレスは
真っ白い部屋でその美しさを
競い合わせているのです。
それであれば、他にどんな
色が
いるというのでしょうか?


 
      
  





       

第3話 「オードリー、50年前に」


  

「『撮影が終わる度に、映画の仕事はもうこれでやめにしたいといつも思います』

と、以前コメントされておられましたが、今回のロケもトラブル続きだったようで

すね。それに関してはどうお思いですか?」雑誌記者は女優にペン先を向けるよう

な鋭い誘導尋問をした。


             


 女優は静かに紅茶のカップを手にした。そしてすっと一口飲むと深呼吸をして、

またゆっくり紅茶のカップをソーサーに乗せると、大きな黒い瞳はそらされること

なくまっすぐに記者を見た。


             



 「散々な目に合うのはいつものことです。でも、どんな仕事でもそんなものでは

あませんか?記者さんのお仕事も麗しいことばかりではありませんよね。いろんな

アクシデントに人間関係から来るトラブル、予測のつかないことばかりではありま

せんか。真剣に仕事に立ち向かうということは人生に真剣に立ち向かうことそのも

のだと思います。そして人生をやめることを毎回思い留まっているだけです」

記者はうなずきながら、メモを執った。そして相手の懐に入るためにはその点に関

してはしおらしく肯定するべきだと咄嗟に判断した。



             


 「確かにそうですね。しかし、かつて撮影の最中に、腎結石で絶対安静と診断が

下されたのに、撮影の現場からはねぎらいの言葉はなく、撮影の遅れを訴える電報

ばかりがやってきていたと聞いていましたが」「それはね、」女優はすぐに答え

始めた。「当然のことだと思います。その当時、私は申し訳ない気持ちでいっぱい

でしたが、自分自身の体調の悪さに精一杯で、休む他はなかったのです。ですから

向こうだって、日に日にかさむ経費で頭がいっぱいになるのはよくわかりました。

常に反対の立場に立って考えるようにと、それは母の教えなのですけど、そのよう

に心がけているつもりです」女優は冗談めかしては言わなかったが、深刻な感じは

感じさせなかった。記者はさすがに大女優の貫録だと大きく体を前後させてメモを

執っていたが、さらに畳み掛けた。


              


 「ロケ中に落馬されて骨折なさったことも」と言いかけると、「ええ、だから

『次回は上手に落馬する役を下さい』と脚本家のH氏に真剣に申し入れをしたほど

です」とお茶目な少女の顔で女優は笑った。記者はそんな笑顔を見ながら次の質問

を数秒、躊躇した。どんな悪人でもこんな美しい笑顔に向かってこんな嫌味な言葉

は吐けないだろうと思ったからだった。しかし職業上、いたしかたなかった。


             


 「率直にお伺いしますが、」記者は女優の顎のあたりを見ながら続けた「『ティ

ファニーで朝食を』のホリーの役ですが、当初、ご友人で原作者のC氏はミスキャ

ストだと思われていたようですが、つまり、あなたより、マリリン・モンローの方

がふさわしいと思われていたとコメントされていますね。もしも、マリリンであっ

たとするなら、大衆はこれほどマリリンへ好ましい評価をしたでしょうか?」


             


 女優は即座に、「もちろんです。作品はもっとロマンチックで、コケティシュで

素敵なものになったでしょうね」と明るく言い放った。そこにふざけた感じは全く

なかった。記者は世の中が諸手を上げて、『ティファニーで朝食を』のホリー役は

彼女しかいなかったと賛同している中、これ以上意地悪く掘り下げるのは、嫌味な

記者という烙印をわざわざ自分に押させ、次回からは取材を拒否される自暴自棄な

ことだとわかってはいた。しかし、相反する嗜好も同時に大衆の真の嗜好だという

こともわかっていた。


             


 「今回の映画『パリで一緒に』についてさらにお尋ねしますが、大方の批評は芳

しくありませんでした。そして公開が予定より1年も遅れたのはやはりお相手役の

W.H.氏のハチャメチャな行いのせいであると、密やかな噂を耳にしたのですが、

その点につきましてコメントを頂けませんでしょうか?」記者は言い終えると女優

の反応をじっと待った。そしてその間、記者は女優の部屋を改めて見渡した。


             


 女優は記者の視線に気づいて、首を後ろに向けると、「ご覧の通り、このスイー

トの部屋はこのホテルの本来の部屋とはまるで違います。私が指示を出して変えて

もらったのです。それは撮影であちこちと転々とする生活を長くやって来て、自分

のホームベースという場所がないことにある日、気づいて以来なのです。多くの方

はホテルのスイートに滞在していると言えば、夢見るような瞳で『なんて贅沢な』

とおっしゃるでしょう。でも、私の好みとは違っている部屋で何か月も過ごすこと

はとてもストレスを感じます。それは仕事に大きな影響を及ぼすことになるでしょ

う。備え付けのどんな高級な家具や食器や椅子のカバーであっても、それより自分

の好みのものを使いたいのです。ですから、すでにお聞き及びかもしれませんが、

私はベッド、家具、寝具、リネン類、カーテン、食器、テーブルリネンまですべて

の細々した私の持ち物リストを持っていて、それに番号を振って記号化しておりま

す。その記号を示して次の引っ越し先に移動する手配をお願いするのです。それっ

てそんなに贅沢なことでしょうか?みんなやっていることではありませんか?私も

多くの人々と同じように、仕事から解放された時間には自分の感性で選んだものに

囲まれて食事をしたり、本を読んだり、くつろいだり、ロマンチックなベッドで明

日のためにぐっすり眠りたいと思います。その場所が私にとって最高のスイートな

のです。そういうわけで、撮影の間起きる数々のトラブルや、もちろん、好ましく

ない出来事があっても、それなりに受け入れられる体制という「私の空間」を整え

ておきたいのです」記者は真摯に聞き入っていた。そしてはっとして、「なるほど

よくわかりました」と答えた。しかし実は最後の質問がまだ残っていた。


             


 「『パリで一緒に』の評価を先程、芳しくないと申し上げましたが、実際のとこ

ろは、好評を博したのはジバンシー氏のドレスだけだという、最悪な評価につきま

して、率直なお言葉を頂戴したいと思います」記者のその質問に女優はしばらく考

えてから、ゆっくりと、そしてそっとくちびるを開いた。


             

 「私もあのジバンシー氏のブルーオーガンジーのナイトガウンにネグリジェはこ

れまでで最高の作品の一つだと思います。たとえタイピストという普通の女の子が

着るにはゴージャスすぎると言われようとも。でも、特に男性の方は見落としてお

られるかもしれませんが、その普通のタイピストの眠るスイートのお部屋のベッド

ルームですけど、そのベッドヘッドの生地はベッドカバーとも天蓋カーテンともお

揃いなのですよ。とてもゴージャスでシックなグレー色のね。そしてベッドの上に

は優美な曲線を描いた白い板状の天蓋がついているんです。映画の評価はストーリ

ーや演出や役者に集中しますが、私がこの世からいなくなった後もずっと語られる

のは、たった数十秒しか映らなかったデザイナーのドレスだったり、数秒しか映ら

なかった部屋のしつらえだったりするものではないかと私は思うのです。


             


 そして、もしかして私がこの世にいないかもしれない50年後には私の知らない場

所でそんな曲線の天蓋なんかを真似る人が出てくるはずです。そして普通の女性た

ちが自分のオリジナリティあふれる生活空間を束縛なくクリエイトしてその中で、

架空であったとしても映画スターか世界を席巻するCEOのように楽しむことに、真

の自由という最高の喜びを感じているはずだと、そう思っているのです」女優はう

るんだ大きなひとみで陽気に、茶目っ気たっぷりにしゃべると、自ら席を立った。

記者も慌てて立った。

             


 「ああ、さっきの、最後の50年後の話はまだオフレコにしておいてください。

50年後にそんなことを言う人のために取っておきたいものですから」


 女優はこの世のものとは思えないような優美な笑みを浮かべていた。




            



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。
  
   *「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。


p.s.1
     リサコラム500回目の自分自身の記念に、以前から書きたいと願っておりました
    敬愛するオードリー・ヘップバーンの架空のストーリーを、知り得る史実に基づき
    書かせて頂きました。こんなぶしつけな質問にもオードリーならこんな風に答えた
    のではないかと空想を巡らせながら。
    参考文献は「オードリー リアルストーリー』アレクサンダー・ウォーカー著
    斎藤静代訳です。438ページ上下2段組の分厚い本は私の愛蔵本です。

     オードリーの顔が上手に描けませんでしたことが今後の大きな課題です。


          


    ミニミニエッセイ「リサコラム もの、こと、ほん」もご愛読ありがとうございます。
    ささやかなティブレイクになれば幸いでございます。


p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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