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リサコラム
連載563回
      本日のオードブル

思い返せばいろいろ
ありまして


第5話


「透明人間になったわけ」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



寝室の
正面の壁に
絵を描きました。
まずは淡いブルーを塗り、
次に濃い青緑の絵具の一筆書きで
線を入れてから破線の緑でしたたる
木陰を表現しました。それに合わせて
ベッドスカートも青緑に替えました。
ガラスの壁の向こうのバスルームも、
その先のバルコニーの椅子の配置も
もちろんローブとバスローブの並ぶ
クローゼットルームの様子にも
全く変化はありません。
さて、あの人は
気づく
かし




 
      
  





        


第5話  「透明人間になったわけ」



  「もしかして、幽霊か、透明人間の仕業でしょうか?」


 「幽霊か、透明人間?君ね、いくら3Dだの、4Dだのって言ったって、それは

あるまい」S氏は口ひげを触ると、「ははは」と乾いた笑い声を発したが、白いシ

ャツに生成りのズボンをはいた日本人のウェイターは首をかしげるばかりだった。


             


 「いったい全体、何かね?ここは、そのブラックホールみたいな強烈な磁場があ

るのかね?」「S様、しかしですね、確かに」「君、密室殺人事件に出てくる、

間抜けな刑事のセリフじゃあないか!笑っちゃうよ!」「おっしゃることはごもっ

ともでございます。しかし私は確かに2度、ここにお茶とお菓子を置きましたし、

それは間違いないと思います。ですので、それから先は存じ上げません」「存じ上

げないって、バカな!さささっと代わりを持って来てくれ!」「かしこまりまし

た。すぐにご用意いたします」バトラーは深々と一礼をするとゆっくりした歩調で

出て行った。


             


 「まったく、こんなバカなことがあるか?しかも2度もS氏は口ひげを触り

ながら、部屋の周りをせかせかと歩きまわった。


 それというのも、アフタヌーンティが運ばれてきた後、S
氏が2度フロントに降り

た束の間にそのお茶とお菓子は分量が減っていたというのだった。1度目は単に勘

違いかと思ったものの、2度目になるとこれは犯罪的な匂いを感じたS氏はウェイ

ターを呼びつけたところだった。


 「わざわざ日本から来たっていうのに、こんな失礼なことがあるか!」S氏はだ

んだんと憤慨を感じ、歩調はどすどすに変わった。そして立ったまま、デスクの受

話器を取った。


             


 「マッサージの時間を変更したいんだがはっ?キャンセルした?この私が?

そんなばかな!電話なんて絶対していない。日本から?いや、それは何かの間違い

だろう。急いで予約を入れてくれ!午後4時半に。部屋番号、2019。今回はもう

おかしなことばかりだ!」S氏はガチャンと受話器を置いた。S氏はこの受話器の

置き方をこの世の誰よりも上手にできる自信があった。


 その受話器の音に反応したかのように先ほどまで晴れ渡っていた空は、けたたま

しい轟音を鳴らし始めた。南国の強烈なスコールがやってきたようだ。S氏はウロ

ウロと部屋の中を歩き回り、そして雨足の強さにやっと気が付いてまたぶつぶつ言

いながら、バルコニーの窓を閉めに行った。


             


 「やれやれ、なんてことだよ。やっと休みがとれたっていうのに。これじゃ、丸

一日は降り続くな?」S氏は鍵をわしづかみにするとバタンとドアを閉めて、外に

出ると、エレベーターホールに向かって歩きだした。「田舎のリゾートはノンビリ

ムードだから、困るよ、まったく!」


 S氏はやりきれない表情を抱えてフロントに行くと、「もう、お茶はいらん。バ

ーに行くからいいよ!ここにはネズミがいるようだ。掃除しておいてくれ。お茶代

はカウントしないでくれよ。あとでチェックいれるけどね」と日本人コンシェルジ

ュに言い捨てると、すたすたと石の回廊をプールの方に歩きだした。


             


 スコールはますます激しさを増し、S氏のサンダルは1分と経たないうちにずぶ

ぬれになった。「なんてことだ!今回はさんざんだ、さんざんだ!」S氏はぶつぶ

つつぶやいた。回廊の左右に広がる手入れの行き届いた緑深い南国の庭は、雨煙で

墨絵を見るような幻想の風景に変わってはいたが、S氏はスタスタと回廊をバーに

向かって歩き続けた。


             


 バーには水着姿のカップルを含め、6,7人のゲストが木の切り株のようなハイ

スツールを止まり木に、南国風の飲み物を手になごんでいる。


 S氏はしばらくメニューを見てから、「お茶、いや、ビール、ビールをたのむ」

と英語でバーテンダーに話しかけた。「はい。かしこまりました」バーテンダー

は流暢な日本語で答えた。


 S氏から椅子4つ向こうのカウンターでは女性二人が陽気な笑い声をあげている。

二人とも帽子をかぶって顔は見えないが、どうやら日本人のようだ。


 S氏は出されたつまみのオリーブをぱくぱくと口に入れるとビールをちびりちび

りと飲みながら、眉間にしわを寄せた。聞き耳を立てようと思ったわけでもない

が、二人の日本人女性の話はどうしても耳に入って来る。


             


 「ウチの主人なんてね、全然、気づきもしないのよ。寝室は一緒なのに、まる3

日、私がいなくてもよ。深夜に帰って、シャワーを浴びて寝るだけでしでしょ。朝

は飛び起きて、車の中でひげをそりながら出勤するだけだから、私の不在に気づき

もしないのよ」「それはすごいわね」「だから今回も黙って来たのよ。きっと気づ

きもしないわ」「それじゃ、部屋のインテリアが変わっても、気づかなくても当然

かしら?」「そんなの当然の当然よ。うちの主人なんて、カーテン変えて1年経っ

たけど、まだ気づかないものね。はははまあ、ベージュのカーテンが白いに変わ

ったくらい、あの人が気づくわけはないけどね」「うちはね、ブラウンから濃いグ

リーンのプリントのカーテンに変えても気づかなかったわよ。私が言ってから、と

っくにわかってたって、そんな素振りをしたけど、それも怪しいわね。そのくせ、

私より物知りでないといやみたいで、何か話を始めるとすぐに話を取って、それは

どうのこうのって、解説を始めるのよ。スマホで調べたりなんかしながらよ。単に

相槌だけでいいのに、いかにも元から知ってたみたいな顔でね、つまんないって思

わない?」「そうそう、それ、ある、ある。ほんと、男って、私たち女より物知り

でなきゃ恥だとでも思っているのかしらね?」「ほんと、ほんと。知らないって言

える人が本当は一番物事をわかっている人なのにね」「そうそう、ネットで見たこ

とを自分の知識みたいに思ってるんだから。そっちのほうが、よほど恥ずかしいこ

とだってわからないのよ」S氏はビールをちびりちびりなめるように飲みながら、

右耳はその二人の話に集中していた。


             


 「それなのに、旅行先では必ず、その町で一番大きな美術館に行くのよ。そこで

ね、一番有名なって言われる絵だけ見て、それもほんの数秒よ、あとは素通り。そ

して、『あれはもう見たから知ってる』って。どう思ったって聞くと、スマホでち

ょろちょろっと調べて、そうそう、こうだって、ウンチクを述べるの」「わ~

それ、うちの主人!有名な絵画や美術品を単に見ただけなのにね。それなのに、い

つもいる部屋の変化にも、私の変化にも全く無関心なのよ。日常の平凡なことにこ

そ、面白みがあるのにね」「まさに!そこも同感。私、『テレーズ・デスケルー』

をいつも思い出すわ」「ああ、はいはい、あの小説ね。新婚旅行でルーブル美術館

の有名どころの絵だけを駆け足で見る旦那さんの物語ね」「似てるわ~、うちの主

人に。お肉を咀嚼するときのこめかみがぴくぴく動くのをじっと冷めた目で見つめ

るテレーズとその気持ちに気づかない旦那さんでしょ。その感覚、わかるな~」

「うん。そうね、わかる、わかる」二人はそこで、軽やかな笑い声を上げた。


             


 「きっと今頃、バリ島のホテルのバーでぶつぶつ言いながら、ビール飲んでるこ

ろね。私も同じホテルに来ていることを知らずにね」「あなたもやるわね」

 それから空は最後の打ち上げ花火のような轟音を立て、二人の帽子はゆらゆらと

はためいた。


   


 「でもテレーズみたいに毒殺なんてしないわよ。それより透明人間になるのよ。

コネクティングルームからそっと出てきてね、お茶を頂いたりしてね。脅かすだけ

だから、かわいいものよ




       



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
   リサコラムは
土曜日の更新に変更させていただいております。

 たくさんのお客様のお話しをいろいろ伺いながら、
想像を膨らませて作りました。もちろん、架空の物語ですが、
どこか思い当る節はございませんか?


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.2
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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