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リサコラム
連載565回
      本日のオードブル

思い返せばいろいろ
ありまして


第7話


「見るからに
ブルー&ホワイト」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

 白と淡いグレーの市松の床と、白い漆喰の
  壁に囲まれた中には白いテーブルが置かれ、
  茶グレーのカウンターには白いハイスツール
  が4脚だけ並んでいる。BLUEWHITEとい
  う名のホテルに変わってからは、木目の木の
  テーブルも椅子も白い塗装をしたものに変わ
  り、そしてその白いテーブルの上にネイビー
  ブルーのグラスが並ぶ。それは、日が落ちる
  頃になると灯される。君はどうやら初めて見
  るけど、お父さんは誰かな?ここのホテルは
  もうオープンからずっと来てるからね、常連
  さんの名前は全員わかるんだ。



 
      
  





        


第7話  「見るからにブルー&ホワイト」



 「残念ですね~今日は。いい天気だったのに、見るからに


 「私はね、『見るからに』という言い方が嫌いなんだよね」栗色の髪の毛をふわ

っとなびかせたSは話しかける風でもなく、しかし、「見るからに」バーカウンタ

ーの反対側にいる青と白のボーダーのシャツを着た相手に向かってつぶやいた。


            


 二人のいるバーとガラス窓で隔てられた10m先、大きな波がバカ~ンと地響

きを立てた。そして次の瞬間、海面から伸び切った大波はザバ~ンと爆音を立て

て落下した。


             


  “大人の手前のモラトリアムのくせに!”とSは心の中でつぶやきながら苦々し

くこぶしを握った。そして、さらに少し考えてから、「『見るからに』は、外見

から判断するとか、どう見てもとか、そんな主観だから、天気の場合には使わな

いと思うよ」というと金色にも見える茶色の少しくせのある前髪をまたさらっと

なびかせてから、「きっとそのうち、その意味もわかるようになると思うけどね」

と言った。


             


 「そのうちっていつ頃でしょうか?」青と白のボーダーのシャツを着た、見る

からに小生意気な“少年”はいぶかしそうな表情をしたが、Sはこんな若いサーファ

ーとはこれ以上話す気にはなれないと思った。「ま、いつか」と言葉を濁すと、

カウンターからじっと爆音を轟かせる海を眺めた。


             


 「カラン、コロ~ン」Sのグラスは静かなバーに透き通った氷の音色を響かせ

た。やっともぎ取った休日だったのに、アンラッキーなことに、荒れ狂う波の日

に当たってしまった。どうやら台風が近づいているらしい。激務の日々を送るS

とって、短い夏の休日をシーサイドのこの瀟洒なホテルで、仕事も家族も一旦忘

れ、波と一体になり、そして白いベッドに長身の体を横たえることこそ、唯一無

二の安息に他ならなかった。


             


 それほどまでにサーフィンに入れ込んでいるとしても、これほどまでに仕事熱

心とは誰も思わないだろうともSは自負していた。しかし、それこそがSの目指す

人生の指針と言ってもよかった。この「見るからに」にやすやすと当てはまるよ

うな外見に真っ向から逆らう姿勢が、Sを「見るからに」おやじにすることなく、

若々しい体型と容貌とを与えていると信じていた。


             


 そんな中のSの貴重な休日ではあっても、それは天候次第、今回はあきらめるし

かない。そうは思いながらも美しい海に通じる小道の前に立つバーカウンターの

席に朝一番乗りでやって来たつもりだったのに、奇しくもそこに「見るからに」

小生意気そうな少年がいつものSの席に座っていたのだった。Sの落胆はいらだち

に変っていた。


         


 地元の少年がわざわざこんなしゃれたバーで高い飲み物なんて注文するわけは

ない。まだ午前7時を回ったくらいなのに、このバーが開いていることを知って

いるということはまさしく常連に違いないから、家族連れだとSは悟った。


             


 このホテルはオープンして20数年になるが、部屋数が20室しかないため、

夏にはその20室をめぐって争奪戦が繰り広げられる。いや、夏だけではない。

真冬を除いた年中、そんな争奪戦はずっと繰り返されてきた。キャンセル待ちは

気休めで、そんな部屋が回ってくることは皆無だった。


             


 そして3年前、ホテルのオーナーが変わり、ホテルの名は『BLUE』から『BLU

E
WHITE』に変わった。それに伴い、ホテルのエクステリアもインテリアも変

化し始めた。部屋は真新しく美しくなり、常にどこかの部屋やスペースの改装工

事をやっているために、20の部屋は常に1つか2つは使えない状態になり、さ

らに部屋の争奪戦はヒートアップした。よって、このブルー&ホワイトの部屋を

確保できた幸運なサーファーはお互いにさらに親近感を覚えるようになっていた。


             


 「さっき、僕が言った、『見るからに』っていうのは、天気の意味ではなくて、

先入観って意味でもなくて」「見るからに」小生意気そうな青と白のボーダー

のシャツを着た”少年”は続けた。「だって、僕も大人に見られたことはないし、2

人の子供がいる親に見られることもありませんから、わかりますよ」そういうと

Sの方を見てウインクをした。


             


 「へ~、ほんとですか? これは失礼。まさか、あなたがお父さんだなんてね、

思ってもみなくて、ほんと、子供扱いして、申し訳ない。ごめんなさい」Sは平謝

りに謝った。


             


 「それで、お年はおいくつなんですか?」Sは思い余って尋ねた。「28になり

ます。ITバブルに乗って、まあ成功したもので、このホテルを買ったんです。確

かに『見るからに』僕は父親には見えませんよね。もともと童顔なんですけど、

しかしあなたと一緒で『見るからに』父親(おやじ)になるのに反抗している部

類です」「ははは、オーナーさんか!まいったな~。そして、見抜かれていまし

た?僕のこと?しかし、とても28にさえ見えないな~16,7くらいにしかね」

「そう言われるのは実は一番うれしくて。それに、誰も僕がオーナーだなんて気

づきもしないですから」「そうでしょうね。しかし、若いな~」Sは栗色の前髪を

さっと振り払うように首を振った。


             


 「でも、あなたも、『見るからに』仕事人間には見えませんね。さらに『見る

からにサーファー』にも見えないでしょう。ほんとはそこを狙ってるんでしょ?

『見るからに仕事人間』に見られるのはダサくてお嫌なんでしょ。僕もそうだか

ら、わかりますよ。でも時々は、オーナーって見られるのも悪くないから、オー

ナーだって言いたいときは、こんな青と白のボーダーのシャツを着ているんで

す。まあ、誰もそうとは気づきませんけど。でも、もしかしてあなたなら、この

感覚わかるんじゃありません?」見るからにBLUE&WHITETシャツを着たオー

ナーは2度目のウインクをした。



      



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  

  時々、「見るからに姉妹にしか思えない」親子の方がいらっしゃいます。
 しかし、まだ、「見るからに兄弟にしか思えない親子」の方には
 お目にかかってはおりません。



  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.2
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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