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リサコラム
連載675回
      本日のオードブル

さくらもも

第9話

「チャイムの音が」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




フランス窓のある
美しいリビング
正面の窓からは
向いの建物の
美しい窓が
たくさん
見える
こんな
借景も
なかなかいいのよ
彼女ならきっというだろう





 







        

第9話 「チャイムの音が」




 
 猫は僕の新しい家の白い柱に体をすり寄せながら優雅にステップを踏んで

いた。


            


 「猫はいいよ~。仕事をしなくても誰かに文句を言われることもなく、みん

なにかわいいと言われ、悪さをしなければ怒られることも、裏切られることは

ない。僕なんてその正反対の営業マンだからね。常に誰かにせかされ、仕事が

遅い、見積もりが遅い、納期が遅いと文句を言われ、かわいがられることはな

く、悪いことをしなくても怒られる、そして裏切られる。それが営業マンとい

う宿命なのか


            


 僕は柱に体を擦り付けているさくらももを見ながら思った。「猫にさえ、名

前がついているのに常に、営業マンと呼ばれる僕は鈴木ユウタロウという名前

があることさえ、忘れそうになる。上司は僕を「単に営業をやらせます」とだ

け顧客に答える。僕の名刺には一応はセールスエンジニアと響きだけはクール

な肩書が小さく書かれてはいるけれど、結局は「営業さん」というおおざっぱ

としか呼ばれたことはない。


            


 でも、この社会の土台を担っているのは、足軽のように、こまねずみのよう

に言われた場所に動く、ドライバーやエンジニアや、営業マンや製造業の労働

者や、運転手やそんな体を使って働く労働者なんだと思う。だって、もしも明

日、総理大臣が代わっても、世界の一流企業のCEOが亡くなっても、社会は

回り続けるんだから。しかし、そんなCEO1万分の1の所得しかない人間た

ちが一度に1万人、ストライキを起こして24時間、街や道路を占領したらど

うなると思う?交通はマヒし、食料も届かなくなり、パニックになるだろう」。

僕は何の不安もなく、バルコニーから外を眺めているさくらももの背中に向か

ってつぶやいていた。


             


 「だからって、だからって、どうした?」にゃおと言って振り向いたさくら

ものの鋭い目は僕にそう訴えかけてきた。やつは単にお腹が空いたか、水が欲

しいかそんなものだろう。「甘えるのも、いい加減にしろよ。僕には養う理由

も何もないんだからね。そんな風にぼけ~として何の心配もなくいられたらど

んなにいいものか?」僕はそう言った後でさくらものを抱き上げると、廊下に

連れて出た。


            


 廊下の壁には、フライングして結婚祝いを送って来た友人の絵がかかってい

る。彼の作品だそうだが、僕はその絵が気に入ってしまって、返そうかとどう

しようかと逡巡したが、とりあえずもらっておくことにした。彼にはまだ僕の

結婚が破談になったことも、この家には1週間しか住むこともできず、海外転

勤になってしまった話もしてはいなかったから。


            


 その彼の絵は、アマチュア画家の域を出ないけれど、彼が自信作というだけ

のことはあり、じっと見ているとその中の風景に自分自身が入り込める。彼が

しばらく旅したフランスのある町のアパルトマンの部屋を描いた絵だろうか、

そんなヨーロッパ風のインテリアに思える。部屋にはコンパクトなひじ掛け椅

子が正面を向いて2脚並んで置かれ、その上に技巧的な刺繍を施したオリーブ

色とオレンジ色のクッションが一個ずつ置いてある。その左手には濃いチョコ

レート色のソファがあり、その上には筒状のいちご色のクッション、イニシャ

ル刺繍がされたマスタード色の四角なクッションがある。そしてフランス窓風

の窓にははっとするブルーグリーンのカーテンが優雅な面持ちで下がっている。


            


 僕はさくらももを腕にかかえたままで絵の前でしばらく思いを巡らせていた。

しばらくすると、猫は嫌がって僕の腕をすり抜けると飛び降りた。いきなり僕

の腕は空になった。空のままで猫をかかえていたと同じ腕の形のままで僕は変

な手持ち無沙汰を感じた。この空の腕組みはまるで僕の家のようなものだな。

住み手のいない新築の家がむなしくそこにあるようなそんな感じがした。


            


 「さあ、」と僕は言ってみた。しかし、その次の言葉が出てこない。


「 “To be or not to be”それが問題だ」。僕はハムレットのようにカッコよ

くはないが、ずっと逡巡を続けて、やはりどこにも行きつけなかった。


            


 仕方なく僕はまた絵の中の窓の外の風景に目を凝らした。向いの建物の細長

い窓がたくさんが見える。色とりどりのカーテンやシェードがその細い窓辺を

彩っている。その小さな窓がやけに気になる。どんな人が住んでいて、どんな

生活をしているのか?つまり隣の生活はいつも幸せな風景に見えるということ

なのだろうか。


            


 もしも、これが僕の前の汚いアパートの部屋で今と同じ状況を迎えていたら、

僕はどんな気分だっただろう。確かに嫌な気分には変わりはないかもしれない。

しかし、その質は違うはずだ。今の僕は汚い部屋の汚れたベッドでうらぶれて

はいない。少なくとも、シルクのパジャマを着て新しいベッドの新しいシーツ

の上で眠れるんだから。僕の向いの古い家に住む住人はもしかしたら僕の白い

柱のバルコニー付きのクローゼット部屋を覗いて、大金持ちが住んでいるかと

勘違いしてうらやましく思っているのかもしれないのだから。そうか、そうい

うことか。僕の気持ちはちょっと晴れた。そのとき、カランコロンと玄関から

透き通った鈴のようないい音がした。


            


 僕はこの家に来て初めて自分の玄関のチャイムの音を聞いた。友人が訪ねて

来たのだろうか?それとも隣人の方だろうか?勧誘か?振り込め詐欺か?誰で

も、何の用でもよかった。そのチャイムの音があまりにきれいだったから。



   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
   マックナイトの作品のほとんどは美しい街並や部屋です。
   だから多くのお家の壁を彩っているのだろうと思います。
   だって簡単に美しい借景を部屋の中に作り出せるからです。


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年8月号です。

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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