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リサコラム
連載709回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第15話

「ニヒルな猫が見たパリ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ホテル・
センチメンタルには
夕暮れがお似合い。
赤紫色から
トマト色に
変る頃
世界中の
様々な場所で
物思いに耽る人々が
いることでしょう。
ホテル住まいのニヒルな
猫のつぶやきもいよいよ
今日が最後のようです。


 







        

 第15話 ニヒルな猫が見たパリ




  私2軒目のホテルに移ってから、半年が経った。私は親切なホテルの支配

人、セバスチャンのおかげで、3軒目のホテルに雇われた。


            


 それにもかかわらず、この半年でたくさんの従業員がいなくなった。使う部

屋数も減らされ、代わりに私の部屋はずいぶんいい部屋があてがわれた。支配

人のセバスチャンの住まいの一室なのだが、かつて世界中からの観光客で朝か

ら晩までにぎわっていた広場を見下ろすテラス窓に面している。


            


 朝が早いパリだったのに、今は、駅を出て職場に向かう人がまばらに通る

だけで、観光客の姿はほとんどない。年がら年中、クラクションの応酬で昼寝

もおちおちできないくらいにうるさかったパリの街は一体どうしたのだろう?

窓を開けるとどこからともなくカフェ・クレームとクロワッサンの甘く香ばし

いバターの匂いが風に乗って部屋の中に入って来て、ああ今日も新たな一日が

始まる、これが日常だと思っていたものさえ、なくなってしまった。ここ半年

でカフェは激減し、わずかに残るカフェには、小さなテーブルに他人の肩が触

れ合うようにひしめいていた面影はまるでない。


            


 人々が違和感を感じているのはこれまでと正反対のことを強いられているか

らだと私は思う。この国の人々はどんなテーマ、どんな事がらに関しても、自

分の意見をきちんと発表するようにと教育、訓練され、つまり、世界中のどん

な人たちよりおしゃべりと言われてきたにも関わらず、それを発揮できるカフ

ェも、レストランも、そして、人と人の集まりもほとんどなくなってしまった

ことなのだ。週末のデモを楽しみにしていた人々はまるで夏の夜の夢のよう

に、鳴りを潜めてしまった。


            


 もちろん、この華やかな街にやって来ていた観光客もめっきり減ってしまっ

た。それもそのはずだ。シャンゼリゼ大通周辺のブティックの大半が店を閉め

てしまったし、それどころか、予約さえ取れなかったレストランさえ次々に廃

業してしまったのだから。今ではエッフェル塔のレストランも閉められている

し、水上バスも1日数本しか運航していない。そして世界中の人々を魅了し続け

た華やかなクリスマスのイルミネーションは、多くの亡くなった人々のための

魂を慰める鎮魂の灯りとなった。


            


 人々はひそひそ声で少し離れて短い話をするように強要され、パリの街は人

々から饒舌という昔ながらの楽しみを奪った。


            


 それも、今年になって大きな変化が現れてきた。長い自粛生活を小さなアパ

ルトマンで子供と向きあって強いられてきた親たちは子供たちを連れて、引退

した人々のようにパリを後にして、庭付きのもっと広い郊外の家に引っ越して

行った。SNSによると、パゴーラという屋根付きのバルコニーが流行してい

るという。その天井にバラや植物を這わせて、天然の日よけにするという。庭

には植物だけでなく、野菜を植えて、急場をしのげるようにと考えているよ

うだ。


             


 しかし、何と言ってもパリの大きな変化は、シャンゼリゼだろう。私はリビ

ングにいるオーナーのセバスチャンの足元に駆け寄った。まずはセバスチャン

の肩に飛び乗ってから、出窓の高い方に飛び移った。そこからは遥か向こうに

だが、エリゼ宮の庭がかすみのようにうっすらと見える。


            


 シャンゼリゼに軒を連ねていたブランドの店が1軒、2軒と店をたたんでい

なくなっていく1、2か月のうちに、あれほど華やかだった通りは、急速にゴ

ーストタウン的な様相を呈してきたそうだ。すると、夜は危ない通りに変化し

始めたという。セバスチャンは一人掛けの椅子に浅く越しを降ろして、じっと

テレビの中の大統領の顔と演説を食い入るように見ていた。


            


 「なんだって?明日から、シャンゼリゼが花壇と畑と遊歩道に戻るだと?な

んてこった!」セバスチャンは頭に両手を乗せて叫んだ。そして一人掛けの椅

子から飛び上がるように立ち上がると窓に駆け寄り、私を押しのけて、背伸び

をして向こうの通りからエリゼ宮を見た。「元に戻らないというのはこういう

ことを言うのか?」彼は両手のこぶしを握り締めた。そしてじっと眺めながら、

次第に彼のこぶしは緩くなっていった。その内彼は深いため息を吐きながら、

頭をがくんと垂れた。彼はこれから先、このホテルをどう運営して行ったらい

いのか途方に暮れているのだろう。私は彼をなぐさめようと足元に近寄った。


            


 彼は私に気づいた、すぐに私のしっぽをつかむと、「Vive la France!

フランス万歳!と言った。「そうか、シャンゼリゼがそうなら、うちのホテル

も中庭に屋根付きバルコニーを作って花いっぱいの花壇を作ろうか、なあ、

パゴーラ」私はしっぽを振った。パゴーラとは植物を這わせる屋根のことだ

が、なぜか、今、急に私のニックネームになった。


             


 それからセバスチャンは私のしっぽをそっと放すと、「やっぱり人間は欲張

りすぎたんだよね。あれもこれもすべて支配したような気になってね。繁栄す

ることしか知らなかったんだよね。花が開いて散るように、繁栄あれば衰退も

あるんだよ。それこそ、歴史が教える都市の姿だからね」


 私は窓辺に腰を下ろしてこの1年で人の流れが変ったために、汚染物質が減

ってきれいになったパリの夕焼けを眺めた。


            


 「人間は失敗と改革と享楽を繰り返す、迷える子羊なんだよ。不惑の猫が言

うんだからまあまあ正しいと思うけどね」私はちょっと誇らしげに、

「ミャオ」と低音で唸った



                              おわり

   




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 これはあくまで、私の予想ですが、エリゼ宮の畑もいいのかもしれません。


  次回は5月13日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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