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リサコラム
連載798回
      本日のオードブル

マダム・シック

第4話

「ジェニファーの部屋」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




黒く
小さい
御影石が
リズミカルな
アクセントを作る
白い大理石の床
白いドアの
真ん中には
ブルーに
塗られた
ブルー&
ホワイトの
ベッドルーム
もしかしたら窓からは
あの塔も見えるのかもしれません。


 


 第4話「ジェニファーの部屋」




 「つい先ほどまでぼろ布のようにくたびれ切っていたジェニファー

ではあったが、自分にあてがわれる部屋を想像するだけで、疲れは

一気に吹き飛んだ。そして、ピエールがブルーのドアを開けると、

後ろから彼を押しのけそうな勢いで中を覗き見た。


           


 
しかし、ドアの向こうは部屋の内部ではなく、また新たな廊下に

出た。「えっ?ここ、どこですか?」ジェニファーがびっくりして

ピエールの肩越しに質問すると、ピエールは流暢な英語で答えた。

「フランスでは、ドアの向こうにさらに廊下があることがよくあり

ます。廊下の先があなたのお部屋ですよ」ジェニファーはピエール

に先導されるままに付き従った。美しい大理石の白い床、その中に

幾何学的に配置された小さな黒い御影石。長年多くの人がこの上を

歩いた風情があったが、汚れに見える部分は少しもなく、美しさを

保っていた。


            


 
ジェニファーは唸った。「なんて素敵!夢のようだわ!マリー・

アントワネットが出てきそうなお城みたい!ロングスカートをふわり

ふわり広げながら歩くための廊下みたいではございませんこと?」

ジェニファーの言葉は妙にマダムぽい言いまわしに変った。

「はははは、そこまで気に入って下さってうれしいですが、この辺り

ではそう珍しくはありません。「そうでなんですね。でも、さすが

に、パリ16区、想像通り、すばらしいお邸ですわ!」ジェニファー

はそう言ったあと、はっとして、デニムの膝小僧をトートバッグで隠

した。なんでこんなジーンズなんて履いて来たんだろう?ああ、

やだ、やだ。こんな素敵な邸宅だなんて知ってたら、姉の結婚式で着

た真っ赤なデコルテワンピースでも着てくるんだったわジェニファ

ーは恥ずかしさの頂点に達しつつあった。いや、でもパリのマダム

だって、普段着はこんなものよ、それに、このデニムだってヴィンテ

ージなんだから、そんなに卑下することはないわよ、そう思いなが

らピエールの後ろをついて歩いた。そしてピエールは「こちらがあな

たのお部屋です」と、白い格子窓のドアの前で止まった。


           


 
そこはセミダブルベッドが部屋の真ん中に1台置かれた寝室は

20㎡ほどで、窓際に小さなデスクが置かれているスペースも入れる

と、およそ30㎡ほど。ベッドはアイボリーホワイトのベッドリネン

が掛けられたわりにシンプルな感じのしつらえだったが、窓にはいか

にも高級そうなブルーのタフタのカーテンと、高級ホテルのエントラ

ンスホールに掛かっているような飾りカーテンが半円の波を打ちなが

ら窓上部を覆っていた。


            


 「すばらしいですわ」ジェニファーは両手を組んで胸に当てると

声を上げた。駆け寄った窓からは1階のサロンの窓から見えた同じ雰

囲気のある建物の景色が広がっている。そして、なんと、小さくはあ

るが、あのエッフェル塔が見えるではないか!ジェニファーはほとん

ど飛び上がらんばかりに驚いた。こんな部屋を高級ホテルで予約しよ

うものなら、どのくらいかかるかしら?一泊、2000は下らないわ

よね。いや、3000かしら?ジェニファーはうるんだ目でピエー

ルを見た。「こんなすばらしいお邸にこんなにお安いお値段で住まわ

せていただけるなんて、ほんとうに、ほんとうに夢のようです。でも、

ここまでゴージャスなお屋敷だと知っていたら、私、もっとちゃんと

したドレスを着てくるんだったんですが、ほんとうにごめんなさい。

恥ずかしいです。でも、マダム・シックがこのお邸にお帰りになる時

には、きちんとした恰好でお迎えします。もちろん、お部屋もぴかぴ

かにきれいにしてお返しいたしますから、どうかそれだけは神に誓っ

て間違いありませんから」「それを聞いたら母は喜ぶでしょう。ジェ

ニファーさんなら、きっときれいに使っていただけると思ってお貸し

しようと思ったはずですから」ピエールはそう言ってから、クローゼ

ットの扉を開けた。


            


 「スーツケースはこちらでよろしいですか?」しかし、うるんだ瞳

のジェニファーには、もうすべてが夢のようにしか見えなかった。

「ええ、どちらにでも」と言ってピエールの方を向いた。ピエール

はちょうどクローゼットの扉を開けて中にスーツケースを入れよう

としているところだった。しかし、スーツケースの幅はクローゼット

の幅を凌駕していたのだった。「クローゼットに入り切れないよう

なので、外に出しておきますね」ジェニファーはクローゼットの中

をちらっと見た。そこにはハンガーが10数本ほどしかかからない

スペースしかなかった。その横には小さなチェストのような引き出

しが数段あるものの、その上には帽子かバッグが2つ、3つ置ける

くらいの棚スペースが残されているばかりだった。ジェニファーは

きっとそこは下着とパジャマとバスローブ用のスペースで、他に巨

大なクローゼット部屋があるのだろうと思った。


            


 「それで、ウォークインクローゼットはどちらにありますの?」

彼女はなるべく美しい言葉遣いでピエールに問いかけた。「ウォー

クインクローゼット?って何ですか?」「ああ、お洋服部屋とでも

というのかしら、クローゼットの中を歩ける、こう、マルシェできる

…」ジェニファーは2本の指で歩いているようなジェスチャーをしな

がら英語フランス語まじりで説明しようと躍起になった。しかし、ど

んなに言葉を変えて説明してもピエールは理解できない風だった。そ

して「個室にほぼ同じようなクローゼットがあるだけですから」と涼

しい顔で言った。ジェニファーはきっと英語のウォークインクローゼ

ットの意味が理解できなかっただろう、後で、マダム・シックに電話

で尋ねれば解決するだろうから、その件は今は追求しないでおこうと

思った。


            


 「私はこれから母を待ち合わせ場所のカフェに迎えに行ったら、

そのまま父の家に行きますので、こちらで失礼をいたします。でもご

安心ください。入れ違いにハウスキーピングのスタッフがやって来ま

すので、部屋のことや、詳しいことは彼女に聞いていただけますか?

この家のことなら何でも知っていますから」

「ありがとうございます。わかりました。どうかお気を付けて」ピエ

ールは軽く手を挙げると部屋の外の廊下に出た。ジェニファーも後か

らついて来た。


            


 「あの、実は、さっきからお尋ねしようと思っていたのですが、テ

レビはどこにしまってあるんでしょうか?」ジェニファーはすぐにで

もパリのテレビ番組を見たいと思っていた。カリフォルニアの自宅で

は起きている間はほぼつけっぱなしだったから、テレビから笑い声が

聞こえていないと不安を感じるのだ。ピエールは一瞬、何か考え事で

もするようなそぶりを見せてから、「テレビ?ああ、確か、居間に

あります。でも、どうでしょう、ずいぶんつけてないから、映るの

かな?」と涼しい顔で答えた。ジェニファーはとっさに理解できな

かった。しかし、それは彼の英語が適切でないからだろうと思った。


            


 幸いなるひと、ジェニー!彼女のパリホームステイはどうなるのか




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 ジェニファー、
早速、カルチャーショックの予感!


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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