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リサコラム
連載962回
      本日のオードブル

『もしもあの時、』

第2話

「30年後の

ベイカー街221B」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





それはいつも、

夜更けのロンドンから

はじまる。

事件の匂いを嗅ぎつける犬のように

ロンドンを隅々まで知り尽くす

探偵の居場所は

ベイカー街221B




 



第2話  「30年後のベイカー街221B」




 「シャーロック・ホームズって知ってる?」私は新入社員の歓迎会

の2次会で行ったバーで、隣に座った部下のKに恐る恐る聞いてみた。


            


 「ああ、あれですね、なんとかバッチ、何バッチ、だっけ?」

「ああ、あれか、カンバーバッチね」私はそういう返事が来ると

思って、あらかじめ予想していたが、その通りだった。


            


 「でも、なんで、ですか?」「いや、まぁ、僕が若い頃にたまたま、

知り合った人、Hさんがね、そのシャーロック・ホームズを研究し

ているちょっと変った人で、それから仲よくなったんだけど…その

彼が、最近、亡くなったって、連絡が来てね…」「はあ、ですか」

Kの気のない返事は僕にではなく、手元のスマホに向かっていた。

僕はそれでも誰かにそれをしゃべらざるを得ない気分だった。


            


 最近の若者は上司と飲んだり、食べたりをしたがらない。昔は、

上司に飲みに連れて行ってもらうのが当たり前だった。「なんで、

うちの上司は飲みにも連れて行ってくれないんだ!」なんて、愚痴

さえ言っていたのだから。今は、新入社員の歓迎会さえ、行きたが

らない。当然、盛り上がるわけがなかった。歓迎会は早々にお開き

になり、まあまあ仲のいい者だけが、三々五々、2次会へと散った。


            


 「その、カンバーバッチのシャーロック・ホームズは21世紀版

のシャーロック・ホームズもどきだから、元祖がいるんだよ」

「元祖ですか?」「オリジナルっていうか…」「へえ~、シャーロッ

ク・ホームズのオリジナル版っていうのがあったんですぅ?」

「もちろん。元祖シャーロック・ホームズは今からおよそ150年前

だけどね」「150年?そりゃ、歴史上の人物ですね」Kはまあ、

妥当な解釈をしたが、やはり、それは自分のスマホの画面に向かっ

てだった。彼も他の人間と同じ程度の、いや、実在の探偵だと思っ

ていた30年前の自分と同じように、元祖ホームズには全く無知だっ

た。


            


 僕はそれでも続けざるをえなかった。「SNSを覗いてみると、

世の中にはいろんな変った趣味の人がいることがわかるけど、元祖

ホームズは歴史上の人物でもないし、だから、実在したわけでもな

い、架空の物語の中の人物たちをその時代に実在した人間として、

あれこれと詮索するのを趣味として、いや、もっとだ、生きがいと

か、生涯の趣味、職業にした人もいた…そんな特殊な人種がいるん

だよ」「へ~、人種ですか~」と、やはり何の興味をひかないよ

うで、視線はスマホから動かず、もちろん、僕の方には見向きも

しない。僕はただ、もう、独り言のようにしゃべり続けた。


             


 「その頃は、休みの日に首都高をバイクで走るのが唯一の楽しみ

だったから、そんな僕が、なぜシャーロック・ホームズなんかに興味

を惹かれたのか、はっきりとはわからない。僕は自分ひとりのツーリ

ングが好きだったから、結婚してからはバイクに乗るのも、奥さんの

許可を得なくちゃならなくなって、それで、段々と乗れなくなって、

乗らなくなったけど、だからって、いきなり、全然違う、シャー

ロック・ホームズに趣味が移るってわけじゃないんだけどね…」


            


 僕はグラスのウイスキーの水割りを飲み干すと、「独身の時によく

行ったそのバーが、ベイカー街221Bって名前でね、それって、

カンバーバッチ見てたら知ってるかもしれないけど、シャーロック

の住まいの番地だよね。だから、そのバーに行くと、やっぱり、そ

のシャーロック・ホームズが好きな人間がひとりふたりは必ずいて

ね、そんな話になったりしたんだよね。結婚しても月に1、2回は奥

さんとも行ってたし、それまではバイクとか、車の話を奥さんにして

も彼女は感心を寄せなかったのに、シャーロック・ホームズの話しに

なると、話しが弾むようになって。そのバーに、そのシャーロック・

ホームズ研究家のHさんもいて、その頃は、まあ、楽しかったね。知

的好奇心っていうのか…」僕はちらっとKを見たが、やはり先ほどと

変わらず、スマホの画面をスクロールしていた。それでも僕は気にせ

ず、問わず語りを続けた。


            


 「セント・バーソロミュー病院っていうのがロンドンにあるんだよ

ね。シャーロック・ホームズが運命の出会いをする場所なんだけど、

つまり、彼の相棒、秘書、親友兼、事件作家としての役割を果たすこ

とになる、ジョン・H・ワトソン博士に出会う。初対面でホームズ

がワトソンに挨拶代わりに言った言葉が、『あなたは、アフガニス

タンに行って来たんですね』だった。150年も前の話で、ネット

なんてない時代だから、初対面の人間がなぜ自分のことを知っている

のか、いや、知るわけがないのに、なぜわかるのかとそこから、物語

が始まる。つまり、ホームズの人となりと才能と職業がそこで暗示さ

れるという印象的な始まりだ。


            


 彼は一瞬の観察によって推理を巡らして、結論に至り、それ以外

の答えはないという確信を得たときに、結論だけをズバリと相手に言

うものだから、その間の推理の道筋がわからない一般人は、一体どう

して、そんなことがわかるんだってことになるんだよね。まぁ、そこ

がシャーロック・ホームズの肝なんだけど。最近そういう人間、いな

いね。みんなが饒舌になってしまって、年がら年中、メッセージを発

信し続けるのが当たり前になってるし。


            


 1880年代から20世紀にかけてイギリスは産業革命で世界の

中心にいたからね。まず、ガスト燈が街を明るく照らす、地下鉄が

通って、電気、電話ができて、世の中が大変革を遂げた街がロンドン

だったんだよね。その状況って、今と似てる気がするなぁ。Ai

日々、進化して勝手に見事な文章を作ってくれたりするらしいし、

それを脅威に感じている人も多いと思う。おそらくヴィクトリア朝

のロンドン人にとっても、手仕事が機械化され、地下鉄、車、電気、

電話が、馬車、ガス灯、電報にとって代わられて、おそらく、変化

についていっていかなかった人もいると思うね。今から5、10年

後は、車は全部自動運転車になってたり、空を飛ぶものになってい

たり、Ai化でなくなる職業が増えて、さらにネット犯罪も増えてい

くんだろうな。


            


 その当時のロンドンも浮浪者がすごく増えて、そして犯罪が多発

していたらしい。その上、どこかで戦争をやってるとかなると、世

界大戦につながるかもなんて不安が生まれる、社会の格差が進ん

で、さらに犯罪が増える。今はネット犯罪が激増してるしね。僕は、

その当時の人たちが抱いていた不安感のようなものが、今と近いよ

うな気がする。だから、そんな時に正義の味方みたいなヒーローが

出てきて、悪人を捕まえて、平安をもたらしてくれないかなと思う

。そんな19世紀末に、シャーロック・ホームズが必然的に登場し

たから、大流行したと言われているんだ。やっぱ、胸のすく思いだ

ったんだろうね。まあ、大谷翔平がぱか~んてホームランを打つみ

たいに、ややこしいことを全部解決してくれないかな~ってね」


 Kはすでに、うつらうつらを通り越し、スマホを持って熟睡し

ていた。


            


 僕が今晩、どうしても行きたかった場所がここだった。30年前

と同じ場所にある違う名前のバー。僕はそこでひとり解説者を続け

ていた。もし、僕の話を聞いてくれる相手がいるとしたら、それは

やはりAiになるのだろうか。



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1

ストランドマガジンに連絡された

元祖(笑)シャーロック・ホームズ

その挿絵を描いた画家がシドニー・パジェットです。

靴がとんがっています。シルクハットは紳士の証拠?

ステッキか雨傘か?

古き良き(?)ロンドンに行ってみたい。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年4月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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