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リサコラム
連載985回
      本日のオードブル

『饒舌の時』

第10話

「パリのアパルトマン」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




高い天井には、

白く細長いフレンチ窓。

窓の外に広がる景色は

中世ぽい建物。

壁に描かれた雲の流れるアート

ピンクとグレーのベッドリネン、

楕円の絨毯

どこから見ても、

そう、パリのアパルトマンです。


 



第10話 「パリのアパルトマン」



 子供の頃から、口から先に生まれたと母から言われてきました。


            


 それは、おませでおしゃべりという意味です。しかし、そんな母も

私に負けず劣らず、おしゃべり好きで、そして大の映画好きでした。

母はお姑さん、つまり、祖母の手前、私を遊びに連れて行かなきゃな

らないからとか、学校の絵日記が書けないからとか、私をだしに使っ

ては、近所にあった小さな映画館に一緒に映画を見に行ったもので

す。ほとんどが、美しい女優さんが出てくる、ハッピーエンドのサク

セスストーリー、美しい悲恋物語、ミュージカルなど全体的にロマ

ンチックなものでした。毎週末のその映画鑑賞会はほんとうに楽し

みで、そのおかげで私は夢見る少女に成長しました。


            


 映画を観たら、すぐにそれを友人たちに語り、自分の夢を絵日記

や作文に書いては、みんなから『夢見る夢子』と言われたもので

す。小学生5、6年生の2年間は放送部でしたから、自分ではもう

十分にスターへの道へ進んでいるようなつもりでいたのですから、

笑えます。そして、小学校の卒業作品の陶板作成では、オードリー

・ヘップバーンのような姿の自分を描きました。それから、中学校

に入ると白馬に乗った騎士のようなイケメンのステキな先輩男子生

徒がいた美術部に入り、そして、その夢はすぐに破れ、高校生にな

ると演劇部などではなく、帰宅部になりました。段々と夢がしぼん

でいく様子が自分でもわかりました。


            


 大人になるということは、手にたくさん持った風船がひとつ、

ひとつ、しぼんでいく、もしくは、しらない内に、夜空に飛んで

ゆくことに等しいと思います。もちろん、その風船には夢が詰ま


            


っています。

 現実とは残酷なものです。中肉中背、美人でもなく、体力もなく、

音痴とまでは行かなくても、芸術的センスはなく、となると、まず、

絶対に無理な夢があることが年をとるごとにわかってゆくからです。

それでも、映画、特に、古い映画を見ることは大好きでやめられま

せんでした。それも、自宅のテレビではなく、映画館の大きなスク

リーンで、ポップコーンとコーラを片手に。


            


 中でもオードリー・ヘプバーンの映画には得も言われぬロマンチ

シズムを感じていました。彼女の着ている細いウェストのステキな

ドレス、美しい姿かたちに、うるんだ大きな瞳の、あの表情、そし

て、甘えたようなちょっとくぐもった喋り方、その全てが好きでし

た。一番初めに見た映画が『昼下がりの情事』でした。


            


 パリのリッツ舞台にした、実際のスイートで撮影されたモノク

ロームの映像はおませな少女の果てしない夢を膨らませました。

何度見ても、わくわく、ドキドキが止まりませんでした。あの映画

を観ると、今でもあの少女時代を思い出します。「私も、こんな

素敵なシーンを演じてみたい、演じることは無理でも、このホテル

に足を踏み入れられるような、そんな世界の人になりたい」と。

そんなふうに、映画のスクリーンの前で、おびただしい数の女性

が胸を膨らませて、そう願ったのではないかと思います。


            


 しかし、そんなスターになれるのは、宝くじの1等に100回当

たるより難しく、できることは、スターを眺めながら、夢を膨らま

せることだけです。だから、何芸もない私は、果てしない夢を、

その後も、高校、大学と女友達と語り合いながら、昼休みを、空き

時間を過ごすのが、誰かのうわさ話なんかより、十倍も楽しかった

のです。


            


 それから30数年、今の現実はと言えば、普通のサラリーマン

です。おしゃれでも何でもない職場で、総務事務、つまり、よろず

雑用係に等しい仕事を相変わらず、続けています。未だ憧れのパリ

には行ったこともなく、後輩の結婚式には行っても、結婚には至ら

ず、ただ、オードリー・ヘプバーンの古い映画を見ては、いつか私

もパリの高級ホテルに、オードリー・ヘップバーンのようなドレス

を着て足を踏み入れたい、1か月ほど滞在してパリの街を、ヨーロ

ッパの素敵な街を歩きたい、そして、パリジェンヌ風のセンスをま

とって日本に戻ってきて、自分の部屋もパリのアパルトマン風にし

たいと、そんな思いを抱くばかりです。まあ、スターになる夢は、

そこまで実現可能なものになったのですが、数年前、やっと手に入

れた築40年の1DKのマンションと職場との往復の日々です。


            


 一体どうしたら自分の夢に近づくのだろう?そうずっと思い続け

てきましたが、地球以外の惑星に移住することを実現化しようとし

ている人々もいる中で、私は地球の裏側にさえ足を伸ばすことがで

きないのです。


            


 しかし、人生も50年、真面目に生きていると、待てば海路の

日和ありというのか、向こうからその小さな夢が近寄ってきまし

た。それは、私の古いマンションと道を挟んで、新しいマンション

が建ち始めたこことです。



             


 最初の見かけは、普通の高級なマンションの佇まいでした。

建ちあがるにつれ、それは、今風の直線のモダンなものではなく、

中世の佇まいの、あの、夢にまで見たあのパリ風の建物そっくりだ

とわかりました。さらに、各部屋には、アイアンの小ぶりなバル

コニーがついていることがわかり、ました。ここに住めたら、

どんなにいいだろう、きっと世界が変わるだろう、あの部屋で

オードリー・ヘップバーンの映画を観れたら、もう何も欲しいもの

はないとまで思わせるほど、映像や画像で見るパリのアパルトマン

とそっくりだったのです。子供の頃に果たせなかった夢の世界が

そこで実現するかもとも思いました。しかし、庶民の私にはとて

も手が出ない価格であることには間違いありませんでした。


            


 それがわかると、悲しくて、悔しくて、見て見ぬふりして通り

過ぎたり、遠回りをしたりして、そのパリのアパルトマンを見な

いようにしていました。


            


 そんな折り、懐かしい幼なじみの友人から電話がかかり、久し

ぶりに食事をすることになりました。イタリアンにするか、フレ

ンチにするか、居酒屋にするか、悩んだあげく、私の隣のマンシ

ョンの1階に昔からあるフレンチレストランにしました。個室も

あり、何でもしゃべれそうだったからです。


            


 30年ぶりの女子会で、話は、昔と今を行ったり来たりしなが

ら、愚痴や夢やごちゃまぜになって、盛大に盛り上がりました。

そして、夕食後はそのビルの最上階にある、12階のカフェバー

に移動しました。話に熱中する外の景色を見る暇もなかったので

すが、彼女がお手洗いを立ったとき、ふと私は窓から向こうを見

ました。私ははっとしました。急いで窓側に近寄ると、あの美し

いパリの新築の建物が私の視界を占めていたのです。


            


 今日から一斉に引っ越しが始まったようで窓には灯りが灯り、

ところどころに美しいシャンデリアが輝き、ビルも階ごとにライ

トアップされて、シックに光輝いていました。それは、まるで

映画の世界、いや、ほんもののパリの風景にしか私には見えません

でした。その麗しい佇まいに私は夢心地になりました。


             


 灯台下暗しとはこのことです。私は愚かでした。パリのリッツ

のような佇まいのアパルトマンに住む人たちからは眺めることが

できないパリの風景を、私の住む古いマンションからは、借景とし

て毎日、見る眺めることができるということなのです。まるで宝く

じに当たったような気分でした。


            


 そして、私は思いました。ああ、このアパルトマンが私のマンシ

ョンの横に並んでなくよかったと。スターは映画館で見たり、コン

サートで手振ったり、なるより、眺める方が遥かに心地よいのだろ

うと。これがオーディエンスという気楽さです。ちょっと離れたと

ころから傍観できれば、それでいいと。それでしあわせだと。これ

からもこのスタンスで行くつもりです。


★おまけは、それ以来、隣りのフレンチレストランがものすごく愛

おしく思えてきて、常連になったことです。



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


パリのアパルトマン風は、上のイラストの『リサコラムの部屋』でも

ご覧いただけます。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年9月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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