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リサコラム
連載986回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第1話

「夢、叶えます」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



シーサイドホテルのような

部屋に女性がひとり

気持ちよさそうに眠っています。

吹く風も爽やかな

秋風

あれ、ノックの音が…



 



第1話 「夢、叶えます」



 落ち葉がちらほらと風に舞う初秋、ひとりの女性が今風の雑居ビル

の中へ入って行った。そして3階でエレベーターを降りると、右に

曲がり、『ドリーミー・クラブ』という、いかにも、嘘っぽい看板

がかかったドアの前に立った。


            


 そのオフィスの中では、カウンターデスクの男性が腕時計をちらっ

と見ていた。


            


 予約の1分前だった。その50秒後、「コン、コン、コン」と、ノック

の音が3回した。「どうぞ!」男性はすっとデスクから立ち上がる

と、ドアの方へ歩いて行った。



            


 入ってきた女性は、疑念に満ちたとも取れる雰囲気が顔と言わず、

全身から溢れていると男性は思った。女性は、ちらっと男性の顔を

見てから、先に口を開いた。



            


 「あの、最近、何かで読んだんですが、人がよすぎる人は、もっと

利用されるそうですが、先生はどう思われますか?」「まあ、どう

ぞ、おかけ下さい」男性は、来客の女性をカウンセラ―用のテーブ

ルにつかせると、「それは、あなた自身のことですか?それとも一

般論としてですか?」と落ち着いて聞き返した。「どちらでも。先

日、娘が、『私って人がよすぎるから利用されるのよね』って言っ

てたんです。ちょっとした用事をお願いしただけですよ。そのいい

方に私、憤りを感じたんですけど、我慢して黙ってました。彼女は

人が好すぎるとは、私、全く思わないんです。そこまで言われたら

もう、一緒に生活はできないなって、そんな風に思って、それで、

考えて、私にも、私の夢を叶える価値があるんじゃないかって、

色々調べたら、このクラブのことを知ったのです。今までずっと家

族の世話をしながら娘、息子を育てて1人前にしてきたんですが、

今では、彼らの方が私の上司のようなふるまいをするんです。

私を存在価値がない人のように扱って。でも、存在価値のない

人なんていませんよね。その人がそこにいるだけで、何かの価値は

必ずあるとは思われませんか?どんな悪人だとしても、100%

悪人と言う事はないでしょう。あるいは悪人がいるから善人が出て

きてヒーローになるんだと私は思うんです」


            


 「なるほどですね」男性は一呼吸ついてから、ゆっくり付け加え

た。「そういう考え方もあるかもしれませんね」「今もフルタイム

で仕事してますけど、買い物袋を提げて、疲れ切って8時頃、家に

帰りついたら、同居している娘夫婦の男の子3人が、いつもですけ

ど、ギャーギャーわめき散らして、そこら中に車や、電車やらが走

って、わんわんうるさくて。特に救急車が好きなようで、ずっと、

救急車が走り回っているんですよ。先日は、その救急車に引っかか

って、こけて、骨折までしたんです。なのに、私の娘は倒れている

私より、そのおもちゃを壊したって、わめき散らす子供の味方につ

くんです。私は痛く起き上がれなのに、自分で救急車を呼びました

よ。救急車につまずいて、救急車を呼ぶなんて、ほんと、笑い話で

す。先生、この状況、どう思われます?」


            


 「そうですね、笑い事ではありませんね。今は少子化ですし、

子供が主役ですよね。金の卵、いや、ダイヤモンドの原石でしょう

か。かつて、金の卵というのは中学を出たばかりの人材に対して言

われたんですけど、今の子供たちが、将来の日本を、世界を形成す

るための人になるのですし、その子が将来、親世代をサポートして

くれるのを期待して、大人が言うなりになっている現状もあるでし

ょうね。私は専門家ではありませんから、何も偉そうなことは申し

上げられないのですが、子供、第一主義の親がほとんどでしょう」

「子供が輝石なら、私みたいな引退間近の人間はつまりセミの抜け

殻って言いたいんですかね?ほんとひどい話ですよ!」


            


 「それでは、まず、お尋ねしたいことがあるのですが、叶えられ

たい夢はユーミンの歌に出てくるような海辺の部屋とありますが」

「はい、その通りです。今でもユーミンのファンです。今ではもう、

古き良き時代の、都会的ハイセンスな歌詞と、くぐもった甘くて、

ハスキーな声に、ああ、私もあの世界に行きたいと、美しく、

洗練されて、ほこりもなく、整って、見晴らしのいい場所に家か

別荘を持ちたいと思うのです。そこで静かに過ごす時間が欲しいん

です。貸別荘でもホテルでも、数週間、ひとりでいられる静かな

悠久の時、それをずっと夢みてきました。でも、そんな世代は、

まあ、そんな風に世代でくくるのは間違っているとは、思うんで

すけど、自分の夢を壊されないように大事、大事に頑丈なガラス

の箱に入れてしまうんですよね。しかし、入れたはいいが、箱を

開ける方法が見当たらないんです。だから、常に遠くから眺める

だけです。ガラスに入ったその夢を遠くから眺めるだけなんで

す」


            


 「なるほど、夢に対するいい表現ですね。そのガラスの箱には

おそらくアカウントとパスワードが必要で、でも、それがわから

ないってことですね」「先生、そうです。それが言いたいことで

なんです」「私たちは、看板にあるとおり、夢を叶えるためのお

手伝いをする、スペシャリストだと自認しています。あなたの夢

を叶えるための3ヶ月計画を一緒に作成するまでが仕事です。夢

に近づきながら、確実にゴールに達成するための3ヶ月の契約を

結んでいただくのです。まあ、うさんくさいと思われる方もおい

でです。しかし、今まで達成できなかった方は1%以下です。つ

まり、100人に1人です。『効果がなければ、返金します』の

ようなシステムはありませんが、ずっとガラスの箱の夢を向こう

から眺めるだけでは寂しい人生だと私は思います」


            


 「こんな私の環境でも、3ヶ月後にはその夢の生活ができるっ

ていうことなんですね?」「慎重に計画して、実行できれば、可

能です」「先生、私、それ、やりたいです。お願いいたします」

「わかりました。しかし、その前に、心構えをお話しします」

「もちろんです。もう、覚悟はできました」男性はにっこり笑

って、「ここまでは無料です。ご安心ください」と言った。

「よかった!それと、私は、アカウントとパスワードを作るのが

大嫌いで、もう、これ以上、作りたくないんです」「その点もご

安心ください。アカウントもパスワードも不要です。必要な宣言

はこれだけです。それは、ご自分の夢を実現させるために、この

心構えをしっかり持っていただくだけです。もし、それが持てな

かったら、ガラスケースのふたはおそらくずっと見つからないで

しょう」


            


 「先生、その心構えって、なんですか?早く知りたいです。心

構えなんて言葉を聞くのも、小、中学生以来なので…」「わかり

ました。まず、欧米の歴史を紐解くと、奴隷制度があった時代が

長くありました。奴隷の権利と義務は、主人に100%仕えるこ

とでした。そして、主人はその奴隷の権利と義務を全部所有して

いました。つまり、主人は自分に仕える権利と義務を自分が負う

ことになります。なんか変ですよね。そう、そこに差別と矛盾が

ありました。しかし、もし、主人と奴隷が同一人物だったらどう

でしょう?自分は主人で、同時に奴隷なのです。『奴隷であるあ

なたは同時に主人であるあなたに100%従う』これがその心構

えなのです。いわば、21世紀型奴隷制度です。あなたはあなた

が決めたルールと目標を遂行するというあなたの奴隷になれます

か?」女性はぽかんとした表情で、「21世紀型奴隷制度、です

か?」と言った。


            


 しばらく、沈黙が続き、男性はにっこり笑ってから、続けた。

「入ってこられる時、ドアのノックをされましたが、普通は2

ノックします。人間の証拠です。1回のノックは、人間ではな

く、つまり、お化けや幽霊がノックしていると昔から言われてい

ます。そして、3回のノックは、それは、疑念と不安と憤りを表

すと言われます。あるいは、とても慎重な人の行動だそうです。

あなたは後者ですね」と言うと、男性は、にこりと笑った。


            


 女性は今までの固い表情が一気にほぐれ、吹き出した。「さすが

は先生ですね。よくわかりました。21世紀型奴隷制度に参加

します。自分で決めたことを守り抜く奴隷になるってことですよね」

「ご理解が早いですね」「これですっきりしましたし、何か変革を

起こす気持ちにもなりました。ありがとうございます」「いいえ、

どういしたしまして。まだ、お礼は早いです」


            


 「先生、あの、さっきのノックの話ですが、私、リフォーム会社

に勤めてまして、よく、壁の下地を当たるものですから、つい、

癖で、3回もノックをしてしまったようです。すみません。誤解を

与えてしまったようで、ほんとに…」



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


星新一のショートショートの『ノックの音が』を

タイトルにお借りました。

21世紀型奴隷制度いかがでしょうか?(笑)


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年9月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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