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リサコラム
連載989回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第4話

「海辺のホテル」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



海辺のホテルの

バスルーム

窓の外に反対側の岬と

青い空、

どこにあるのか、

きっと世界中にはたくさんあるでしよう。

でも、そこは、ひとつ。


さあ、ショートショートの世界へ!


 



第4話 「海辺のホテル」



 「コンコンコン」ノックの音が聞こえた。「もうちょっとだけ、

待ってくれないかな?この天にも登るようないい気分、もうちょっ

と味わいたいんだけどなぁ」男性はそうつぶやいた。白い窓枠から

切り取ったように見える風景は、まるでギリシャかイタリアかどこ

かの海辺のように見える。しかし、彼が小学3年の日帰りスケッチ

旅行で、出掛けたあの風景にもとてもよく似ている。


            


 そのかつての少年は、白いスケッチブックを絵具で全面ブルーに

塗りたくった。それを背後から見ていた先生は、「白い雲は風でど

こかに吹き飛んでしまったみたいね」と言った。少年は仕方なく、

「はい」と言うと、その先生は優しく、「青い絵具を全部塗ってし

まったら、白い雲は青い絵具が乾くまで描けなくなるでしょ。そん

な時は、こうするの」と言って、先生は自分の真っ白いハンカチを

ポケットから出して、青い絵具の上を、すっ、すっ、と動かしなが

ら、薄く青の絵の具をはぎ取った。すると、青い空にきれいな白い

雲がまた舞い戻って来た。先生は青いシミになった白いハンカチを

先生はさっと空にかざして、「ほら、代わりに青空をもらったわ」

と言った。男性はそんな少年時代のひとコマを思い出しながら、真

っ白い卵型のバスタブに首だけ出して、ぷかぷか浮かぶバラの花び

らをもてあそんでいた。


            


 「コンコンコン」また乱暴にドアをノックする音が聞こえる。

男性は「ああ、もう、うるさいな!ちょっと待ってくれよ、こんな

いい気分なんて久しぶりなんだから」そうと言って、ぶくぶくと

お湯の中に潜った。


            


 ここにやって来るまで、男性は昼でも夜でもない、時間の感覚さ

えわからなくなるような多忙な日々を何年も送っていた。毎日、さ

まざまな仕事や雑務がまるでオフィスの天井を突き破って空から降

ってでも来るようにやって来た。それはやればやるほど、細胞分裂

して増えてゆくようだった。彼は仕事の優先順位が付けられない優

柔不断といえる性格で、累積する雑務の中でいつも溺れそうな感覚

に陥っていた。一つ一つ、処理をしていても、ケイタイから、電話

から、メール、メッセージから、様々な雑務が降りかかる。処理速

度を速めて、蟻地獄から這い上がろうともがいても、時間ばかりが

過ぎて、まるでブラックホールに引きずり込まれるように感じる時

もあった。そんな時、デスクの上に頭をつけて、倒れ込むように、

しばらく仮眠を取ることがあった。


            


 ある日、そんな仮眠中の夢うつつの状態の中で、彼はこう悟っ

た。自分はこうして果てしない雑務に謀殺され、あるとき、ばたっ

と倒れて死んでいくんだろうかと。


            


 「いや、そんな惨めな死に方はしたくない」それだけは嫌だと思

った。そして、ゆっくり顔を上げると、パソコンの待ち受け画面に

美しい海辺のリゾートのような画像が映し出されていた。長く弓形

に伸びるビーチの先、岬になった丘の上に白亜の建物が立ってい

る。男性はその絵をじっと見た。


            


 「ああ、今、すぐ、飛んで行きたい」心からそう思った。そこに

は、自分の疲労困憊した体を受け止める白いベッドと、大理石の

床と、大きなバスタブがあるはずだ。海に沈む夕日も見えるだろ

うと思った。「もしも、鳥のように翼があれば、簡単にあそこに

飛んで行けるだろうに」そう思いながら、絶望的にため息をつい

た。そして、その画像を待ち受け画面に固定し、その場所の住所

をふせんにメモして、手帳に貼り付け、その下に注釈を書いた。

「私の最期の場所:海辺の白亜のホテル。もしも、私が倒れてい

たら、意識がなくても、そこに連れて行ってください!この白亜

のホテルに」とそんな戯れの言葉を書き記した。それは、人はど

こで行き倒れになるのかわからないのだから、自分の死にたい場

所を記しておきなさいと、何かで読んだものだった。だから、そ

んな時のための、遺言めいた最期の場所のつもりだった。


            


 そして、ある日、彼は、本当に、デスクでばたっと前のめりに

倒れた。そのまま、男性は薄れてゆく意識の中で、白日夢のような

ものを見ていた。


            


 誰かが自分の手を引っ張っている。「こちらへ来なさい!そっち

に行ってはダメだ!」その人は強い力で、彼の腕を引っ張ってい

た。しかし、彼の体には数字やら文字やら、紙やらがぐるぐる巻き

付けられていて、動かすことができなかった。そしてどれぐらい意

識を失っていたのか、見当もつかなかったが、彼はベッドの上に横

になって目覚めた。救急車の中とは空気の匂いが違うような気がす

る。サイレンの音もしない、静かだ。どこの病院だろう?しかし、

だれもいない。体に管もついていない。朦朧とした意識の中で、あ

たりの様子を手ざり感だけで確かめてみると、病院のベッドとは何

かが違う感じがした。彼はそのとき、思い出した。それは手帳に戯

れに書いた遺言のことだった。


            


 「ああ、あそこに連れて来られたんだ」そして、男性は、とうと

う自分は最後の息を引き取るのだと悟った。「これでいい。もう、

埃くさい事務所の中で、雑務と数字に押しつぶされて、死なずに済

むんだ!」男性は白いシーツの上で、幸せを噛みしめていた。そし

て、起き上がれるものなのか、試してみようと思った。ゆっくりと

右手をベッドの端に置き、体を横向きに少しずつ回転させて、まず

、右足をゆっくり床に置いた。ぞくっとするほど、冷たい。また、

もう片方の足をそっと床に置いた。ああ、この冷たさは、大理石だ

。それから、ゆっくりベッドから立ち上がった。そして、部屋の中

の様子を確認しながら、さらにゆっくり歩いて、ガラスのドアの前

に来た。このドアの向こうはいったい何があるのだろう?男性はド

アに顔を近づけて中を覗いてみた。


            


 奥はバスルームになっているようだった。丸い卵型のバスタブが

ある。そして、その奥には、白い窓枠の向こうに青い海と空がぼん

やり見える。「ああ、」男性は声をあげた。少年の日に見たあの海

辺の風景にそっくりだった。すぐに中に入ろうとして、一瞬、躊躇

した。もしかしたら、この先はほんとの天国なのかもしれない。行

くべきか、行くべきではないのか、しかし、あの殺人的な日常に戻

る気はしなかった。もちろん。


            


 
そのとき、バスタブの中で黒い頭が動いた。「ああ、誰かがい

る!」その頭は一度上に上がってから、また、バスタブの中に吸い

込まれて行った。「ああ、おぼれているんだ!」男性はとっさに

ドアを開けようとした。しかし、鍵がかかっている。男性はノッ

クした。返事がない。どうしよう、ドアノブは全く動かなかった。

何度もノックをした。しかし、返事がない。「助けて!」男性は力

の限り、部屋の中に向かって叫んだ。


            


 そして、自分の叫び声ではっと、気が付いた。男性は机の上に突

っ伏したままだった。深夜で他のスタッフはみんな帰って、だれも

いなかった。ただ、パソコンの画面にあの白亜のホテルが映し出さ

れていた



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


夢の中の白亜のリゾートホテル、

近くて遠い自分リゾート、

どちらがいいのか?




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年10月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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