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リサコラム
連載994回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第9話

「楓の小径」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




落葉の小径

ふたりあるけば

ロマンチック

シネマチック!

その後、

センチメンタルに。

 



第9話 「楓の小径」



 「コンコン」ノックの音がした。虹子は椅子からゆっくり立ち

上がると、「どちら様ですか~?」と勝手口に向かって叫んだ。

もちろんそんなことを聞かなくてもわかっている。秋の日曜日、

虹子の家を訪れる人は決まっているのだから。


            


 ネットの時代ではあっても、虹子の家に宅配業者などやって来

ることはない。贈り物さえすべて断っているし、まず、虹子の住所

を知る人は、親族の数人しかいない。最近は年賀状さえ来なくな

り、辺鄙な場所ゆえ、郵便物はすべて郵便局留めで、時々、まとめ

て取りに行く。つまり虹子の家には、郵便ポストも宅配ボックスも

ない。外部との通信手段は、固定電話が1つあるのみ。もちろん

スマホやパソコンなどの電子機器もない。なによりテレビがない。

過疎の村に12年前に越してきたが、それまでは都会のど真ん中の

マンションで暮らしていた。大企業を定年まで勤め上げたあと、

考えるところがあり、風光明媚な田舎のしかし、十分に不便な場

所に古屋を買い、リノベーションをして本だけを抱えて移住して

きた。


            


 虹子は引っ越しにあたり、ほとんどすべてのものを処分した。

大量にあった服、部屋着、靴、およそ、持ち物の9割を処分した。

その中に30着のスーツ、3人掛けのソファ、ダイニングテーブル

と椅子、そして車もあった。家は4.5畳の和室が2つと、縁側の

ついた6畳の部屋、納戸が一つ、下駄を履いて作業する土間には台

所があるという、典型的な古い日本の田舎の家屋で、勝手口から家

庭菜園に通じている。自給自足の生活を目指してはいるが、どうし

ても必要な食料品、日用品は隣町の大きなスーパーで調達する。毎

週火曜日に定期便の送迎バスがやって来て、途中、いろんな停留所

に寄りながら、30分ほどでスーパーに到着し、1時間半後、また

、送り届けてくれる。もちろん、近くにコンビニなどないから、虹

子にとって、その送迎サービスはこの辺鄙な村を選ぶ決め手のひと

つとなった。


            


 そして、その村には風光明媚な場所に通じている雑木林のような

小径のある公園があった。木のほとんどが落葉樹で、秋になると得

も言われぬ美しい錦絵の風景が広がる。ずっと前、一度、車で通り

がかりとき、あまりの美しさに車を降りて、小一時間も散歩をした

ことが、虹子がこの場所に移住を決めるきっかけとなった。仕事人

生を終えたセカンドライフは、美しい落葉の中を歩ける場所がいい

と、その時、直感で決めたのだった。


            


 虹子はこの場所に移住して来てから、毎年、秋になるのが待ち遠

しかった。もみじ、楓、イチョウなどの落葉樹が枝葉を揺らす度、

橙色、紅色、黄色の葉を乱舞させる。虹子はその中を歩くとき、若

い頃のセンチメンタルな記憶が映画のワンシーンのように、ぼんや

りと蘇った。しかし、秋が深まると落ち葉が地面を埋め尽くすほど

になるその小径は、累積した大量の落ち葉で歩きにくく、雨が降る

と滑りやすく、紅葉の散歩の心地よさが半減すると思った虹子は自


            


ら、地域の人たちを誘って清掃ボランティアを始めた。地元の人た

ちは最初、あまり乗り気ではなかったけれど、説得した結果、数人

が集まり、その人数も年々増え、活動の範囲も年齢層も広がってい

った。


            


 今では田舎の老人の一人暮らし、虹子にも、過去にはセンチメン

タルでロマンチックな思い出があった。虹子の最初の秘めたロマン

スは、大学2年生の11月の末だった。日曜日、同じ映画研究会の

4、5人で、たて続けに3本の洋画を見て、その後、帰る道すがら

のことだった。方向が同じだった、虹子と来春卒業の楓という名の

男性の先輩が、一緒に帰ることになった。楓は遠回りだが、公園の

中を通って帰ろうと提案し、虹子は一緒に広い公園の中を散歩しな

がら帰ることになった。


            


 手のひらほどもある大きな楓の葉がひらひらと舞い散る中、さっ

き見た、『枯葉』という映画のシーンそのもののようなシネマチッ

クな光景の中に、自分と憧れの先輩が一緒にいるということに、虹

子は夢のような気分に浸った。そして、映画の続きを演じているよ

うな錯覚にとらわれた。ずっと、一方的に映画の話しをする楓の横

で、虹子は空想から妄想に至り、ある、“女の直感”を得た。


            


 それは、「わたしは、ここで告白される。いや、もしかしたら、

結婚を申し込まれるかも、いや、そのはずだ」というものだった。

それは、顔にかかる落ち葉を気にするでもなく、夢中で映画談義を

する楓先輩の顔をうっとり眺めながら、生まれた“女の直感”だった

。しかし、まだ20歳の虹子は、どう返事をしたらいいのか、まる

でわからなかった。その困惑した気持ちと興奮状態のままで、とう

とう、公園の出口に近づいた時は、もう、空にも舞い上がるほどハ

イな気分になっていた。


            


 公園の出口で、その虹子のフィアンセになるはずの男性は片手を

あげて、「それじゃ!」とだけ言った。虹子の期待した言葉の欠片も

言うことなく、示唆することはもちろんなく、風のように、反対方

向に歩き去って行った。


            


 虹子のロマンスは砕け散った。楓はそれから部活にも来ること

もなく、風のうわさでは、2年後、家業を継ぐために実家のある田

舎に戻り、結婚したと聞いた。虹子はあの公園での、ひとり芝居を

思い出す度、恥ずかしさのあまり息ができなくなるような感覚にな

る。しかし、時が、すべてを忘れさせてくれると思いながら、独身

のまま仕事一筋に生きて落ち葉散る公園の散歩道を歩いた記憶は、

もう、二度と思い出すまいと、心の中で封印したまま、みごと、

定年を迎えた。今住んでいる場所の公園を維持管理したいと思った

のも、半世紀がたち、虹子の過去の記憶も薄れたからだろうと、自

分でも思っていた。


            


 「コンコン」また、勝手口のドアをノックする音が聞こえた。

今日は、その公園と雑木林の清掃ボランティアの日だった。虹子は

、土間に降りて下駄をはくと、今度は、「おはようございます」と

いう声と同時に、勝手知ったる青年が勢いよく、勝手口のドアを開

けた。


            


 「虹ちゃん、迎えに来ました!」「いいすか?準備OKすか?」

青年はたて続けにしゃべった。「もちろん!」虹子は元気よく答え

た。虹子のボランティアの日曜日の朝は、この青年が勝手口に現れ

ることから始まる。そして、彼の車に乗って、公園まで行くと、手

にほうきとごみ袋を持ったメンバーたちと合流して、3時間かけて

公園の中を掃き清める。


            


 虹子は最近、心の中であることを祈るようになった。それは、

「これがずっと続きますように。どうか、この車がデイサービス

の車に変わることなく。そして、この青年が、足腰の弱った自分

を支えてロマンチックな紅葉の小径を歩くことのないように」と

いうことだった。


   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


 秋は物悲しく、ロマンチックでセンチメンタル。

現実は、美食、グルメの秋も半分以上。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年11月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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