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リサコラム
連載525回
      本日のオードブル

かつて

第1話


「デンハーグという
ハーバービューホテルが
あったんだよ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




オランダに
旅行に行かれた方が
美しい運河の街を見て、
ハウステンボスみたいと
思ったと言われたことを
聞きました。
絵のように
美しい街が
次第に
美しく古びて、
古都と呼ばれるように
なることを願っています。


 
      
  





       


第1話
  「デンハーグというハーバービューホテルがあったんだよ」



航は外に出ると帽子を目深にかぶった。昨日より気温はさらに2,3度低いようだった。


 航はハウステンボスという町名にもなった、街全体がエンターテイメントな施設に来ていた。

会社の保養所になっていたため、航は出張のついでに初めてその中のフォレストビラというロッ

ジに宿泊していた。


                


 湖を囲むように建てられた戸建てのロッジだから静寂な夜を味わえるかと思いきや、女子旅

や、海外からの観光客で結構騒々しく、予想とはちょっと違っていた。それならまだ人の少ない

朝の散歩でもしようかとオランダの街並みそのままの石畳の道をあてもなく歩いて、港を見渡せ

るホテルのあるところまでやって来た。


                


 海から吹き寄せる風のせいで、体感温度はさらに3、4度も低く感じる。航は今、『ウォータ

ーマーク』という名のホテル前に来ていた。湾に向かって大きくコの字型に羽を広げたようなシ

ンメトリーなホテルの外観は端正で壮麗なまでに美しい。ヨーロッパの格式高いホテルを思わせ

る赤茶のレンガにダークグレーの三角屋根。そして白い窓枠。ここは以前、『デンハーグ』とい

う名前だったらしい。数年間経営の立て直しのため休館し、その間に起きた東日本大震災では被

災者の受け入れもしたというデンハーグとは、元々、オランダの北海沿岸にある州都の名前から

取られたらしいが、今ではその由緒ある名前を捨て、持ち主も変わった。


 これからこのホテルの歴史を知る人も年々少なくなってゆくのだろうか、戦争中には名だたる

ホテルが病人の受け入れ施設になった歴史は無数にあるらしいから、ホテルとは名前も持ち主も

変えながらなんとか存在し続けるしかないのだろうかと、航はそんなことを思いながら、デッキ

に立ってその優美なハーバービューのホテルをじっと眺めた。


                


 それから航はホテルの前の整備されたデッキを街の中心に向かって歩き、ホテル・ヨーロッパ

の下の船着き場までやって来た。ここから運河を巡る屋根付きのおしゃれなカナルクルーザーに

乗れる。

 ロープの前には航の前に2人が待っていた。そしてその列に航が並ぶとクルーザーは3人だけ

を乗せて出港した。

 出港とはいえ、遊覧船のような小さなクルーザーは人工の運河のおだやかな水の流れに沿って

オランダそっくりの街並みを見物するというもので、15分もあれば最終の船着場のゲート付近に

到着してしまうのだ。

 航は最後尾の座席でぼんやり外を眺めていた。すると前に座った中年の男性が、傍らの少し若

い女性にひとつひとつの施設について事細かに説明を加えている。


                


 「あの大きな塔みたいなのは何?」と女性が聞いた。「あれはドムトールンっていうんだよ」

「ドムトールン?」「ほんものはオランダのユトレヒトにある教会で、高さはここより7m高い

112mだけどね。中は展望台になっているから、ハウステンボス全体が見渡せる。後で上ってみよ

うか?」「ふ~ん、そうなんだ」女性は眠たそうな声で反応した。男性は構わず、「上から見る

と、ほんとにオランダに来たみたいだよ」と言った。そして荘厳なゴシック建築を真似た塔を指

さした。「エッフェル塔みたいにどこからでも見えるから、待ち合わせ場所をドムトールンに決

めて自由行動もできるよ」「ふうん、そうなのね」女性はあくびをした。


                


 「それに、ここの一番は、美術館になっている宮殿のゴシック様式の庭園だね。そこのバルコ

ニーから眺めるとさらに素晴らしい眺めだよ。元はオランダの宮殿で、設計はされたが実現でき

なかった幻の庭園を再現したらしいよ」女性は「まあ、そうなの」とだけ答えた。男性はあまり

興味を示さない女性に問わず語りを始めた。


 「このリゾートの街が出来た時に僕は思ったんだよ。ここはユートピアになるとね。日本中と

言わず、世界中から別世界を求めて人々がやってくるはずと思ったんだよ。だってそんな価値は

ある街だからね。この場所はもともとヘドロだらけの荒地でね、そこにオランダの一面のチュー

リップ畑を彷彿とさせるすばらしいお花畑を作れるくらまでに土壌改良をしたんだからね。そし

て堀をめぐらせて塩害を防いで、それから街の中に運河を通して古き良きオランダの街並みを、

その回りに新しい街が広がってゆくように設計されているんだからね、すばらしいじぁないか」

「なるほどね」女性は少しだけ身を乗り出して窓からの景色を眺めた。


                


 「それだけじゃない。この街から出る排水は海の水よりきれいだって言われるほどの下水処理

システムに、ゴミのリサイクル浄化設備を持っている。そんなエコロジーな最先端の理想郷だっ

たんだよ」「だった?」女性が聞いた。男性は「まあ、いまでも変わらない部分はあるけどね」

と少し寂し気な声を上げた後、「10年くらい時代を先取り過ぎたのかな。あまりに先端のエコロ

ジーなすばらしい街並を作ったものだから、予算は当初の2倍に膨らんでね、その借金を返せず

に、とうとう8年で、運営する会社が会社更生法の適用を受けたんだよ」「ふ~ん、そうなのね」

女性は多少興味を示したようだった。

                

 「開業当時は『1,000年続く街』っていうキャッチフレーズでね、みんなわくわくしたものだけ

どね」「でも、今ではキャラクターのアトラクション施設がいっぱい!」女性が言った。「『変

なホテル』ってホテルもできたけどね、フロントにいるのはロボットだよ!最先端ももっと違う

方向がよかったな。もったいないよね~。こんな理想郷は世界中探してもきっとどこにもないの

に。ここに学校を作って定住者を呼んで、そして先端医療や地球環境を守るための研究機関も作

って、エンターテイメントの街から、研究学園都市に舵を切って行ったらよかったのにって、僕

はそう思うよ。優秀な研究者の頭脳をエンターテイメントばかりに流出させたくないものだね」

男性は半ばあきらめたようにため息をついた。女性はそっとうなずいた。


 「もしも、僕が最高責任者だったらそんな理想郷に方向転換させたんだがね。しかし一番残念

だったのは、値段の割に狭いホテルの部屋とさらにリゾートホテルに欠かせない、優雅なバスル

ームがなかったことだね」「いきなり優雅なバスルームになるわけ」女性はちょっとびっくりし

たような声を上げた。


                


 「そんなものさ。リゾートはトイレと浴槽の距離が離れれば離れるほど、浴槽が広ければ広い

ほど遠くから人を集められるんだよ。デンハーグはハーバービューホテルとしてこの上ない立地

とハードを持っていたのに、そこを外してしまっていたんだよね。本来ならシンガポールの最高

級ホテル並みにアジアの中で最高レベルのハーバービューリゾートになってもおかしくなかった

んだよ。世界中からゲストを呼べるほどのロケーションと外観とを持ったホテルだったんだから

ね」「でも便利な場所ではないわ!」女性は反論するような口調で言った。「そんなことないさ

リゾートは隠れ家とイコールともいえるからね。ある程度不便でなくちゃいけない。駅前じゃあ

リゾートにならない。傷だらけの心とくたくたの体をふかふかのベッドと最高級のリネンで包み

込んで修復させるには騒がしい場所は似合わないよ」「そういえばそうね」女性はクルーザーの

窓から顔を出した。

                


 その会話をじっと聞いていた航の耳に地響きのような「ぼぅ~」という音が聞こえて来た。

 「それにほら、聞いてごらん、汽笛が胸にしみなきゃならない。それが隠れ家リゾート中で

ハーバービューホテルの誇れるアドバンテージなんだからね」男性は振り向くと、航の方を見て

言った。


 「そんなデンハーグというハーバービューホテルがね、かつてあったんだよ」

    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  佐世保のハウステンボスは開業からずいぶん変わりましたが、
  オランダの街並を模して造られた街、ハウステンボスがこれから
 さらにいい方向にゆくことを願って書いてみました。
  オランダ本国の宮殿を模して作ったハウステンボス宮殿ですが、
 施工途中の外壁のタイルの目地の巾が実物と2㎜違っていたことが
 発覚したそうです。そこでハウステンボス側は迷わず4,000万円かけて
 張り替えたという美談があります。
 そのことでオランダとの信頼関係が強固になったそうです。
  しかし、今となってはちょっともったいなかったのではないかしら?と、
 思いませんか?
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。リサコラムアーカイブスです。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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