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リサコラム
連載526回
      本日のオードブル

かつて

第2話


「ホテル・ド・クリヨンが
好きで」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



窓から
見えるのは
エッフェル塔
なんかではない、
つまらない景色で、
美しい広い庭でなく、
ゼラニウムの鉢植えでも、
長いカーテンと天蓋カーテンに
守られたような気持ちいベッドに
美しいベッドスプレッドに、
シャンデリア、そして
お隣の部屋が
ライブラリー
なんかで
あれば
もう
何も言うことはありません。


 
      
  





       


第2話
  「ホテル・ド・クリヨンが好きで」



日差しも日に日に穏やかになった日曜、瑠々子はリフォーム会社の受付で「鈴木瑠々子です」

と名乗り、「りりこ」は「瑠々子」と書きますと言うと、女性スタッフは窓際に沿ってテーブル

の並ぶ相談コーナーにりりこを案内した。


               


 りりこは約束の時間より10分ほど早くやって来たため、テーブルにはつかず、待ち合わせを

した営業マンのTがやって来るまでの間、3方の壁に飾られた施工写真やパース、スケッチの額

を眺めながらゆっくりイメージ散歩をしていた。


               


 そこに、「お待たせしました」と営業マンTは元気のよい挨拶をしながらやって来た。「今日

は寝室のリフォームプランでございますね」とTは言うと、さわさわと紙の音を立てながらテー

ブルの上に図面を広げた。そしてはち切れそうな背広のボタンを留めてから、りりこの前に腰掛

けた。りりこはすぐに、「『ホテル・ド・クリヨン』みたいなクラシカルで、でも、ちょっと

モダンな感じのする部屋が理想なんです」と言った。Tは一瞬、「?」という口の形をした。


 「ああ、パリの歴史的なホテル、ホテル・ド・クリヨンです」と、りりこは言い直した。「な

るほど、クラシカルでモダンな感じですね」と営業マンTはうなずいた。「でも、ルイ15世風を

真似て、とかいうのでは全然ありません。もちろん、ルイ16世風でも」


               


 Tはがっしりした体格には不釣り合いな繊細な声で「あ~、わかりますが、」と言うとすぐに

「ルイ15世にしましても、16世にしましてもご予算的には結構ゆきますでしょう」と言った。

「どのくらいでしょうか?」「どのくらいかは、すぐにはお答えできませんが、今お考えになら

れている数倍かもしれません」とちょっと脅し文句を言った。「それに、クラシカルなホテルと

なると装飾的な面でかなりコストUPしますし、まず、同じようには難しいですね」と顔を曇ら

せた。


               


 「ええ、それは、わかっています」Tは、「クラシカルな雰囲気なら、モールディングと呼び

ますが、壁と天井の境目など縁取りたい部分にデコボコした廻縁をつければ、クラシカルになり

ますよ」と言って笑顔を作った。


               


 「ええ。でも、そうじゃなくて」「そうじゃなくて?」営業マンTはそのあとの「どうなんで

すか?」というニュアンスを含んだ言葉を飲み込んだようだった。


 「デコボコした回り縁は素敵ですが、壁と天井ではなくて、ベッドのヘッドボードになる壁に

貼りたいんです」とりりこが言うと、「なるほど、わかりますが、やったことはありません。

まあ、できるかもしれません。ただコストはUPしますね」と、りりこの反応を待った。りりこ

20秒ほど考えを巡らせた後で、出されたコーヒーを一口飲んでから遠慮気味に言った。


               


 「たった一度しか泊まったことはないんですけどね、クリヨンには。新婚旅行で。それでとて

も好きになってしまって。でもそれ以来、行けなくて。そしたらクリヨンは完全に閉鎖してリニ

ューアルを始めてしまっているでしょ。ほんと、リニューアルする前にもう一度泊まりたかった

んです。だって、どんな風に変わるのか、楽しみ半分、寂しさ半分でしょ。それにね、パリの4

つ星以上のホテルはどこもフランス人以外のよその国の人が持っているじゃないですか、唯一残

されたフランス人がオーナーのパリのクラシカルなホテルということで、余計ファンになっちゃ

って。最近はリッツも改装しましたけど、リッツのオーナーも外国人ですよね。だんだんとフ

ランスの遺産のようなものが海外に流出するようで、きっとパリの人たちは寂しい気持ちを持っ

ているんじゃないでしょうかね?」


               


 りりこはTの表情に変化を探したが、Tはこの先どう進展するのか不安を感じているような表

情をしていた。そして不思議な面持ちでぐるっと目を回すと、視線は壁の上で止まった。


 りりこは先を急ごうと思った。「あの、それで話は飛躍しますけど、クリヨンがどんな風に変

わるのかとか考えていたら、自分の部屋も私の理想に変えていこうという気持ちが湧いてきまし

」営業マンTは「なるほど、」と言った後で、「それで具体的にどのようなお部屋がご希望

ですか?」と単刀直入に聞いた。


               


 「ベッドルームのすぐ横は庭で、天井の一部はガラス張りで、テントを開けば、空が見えるよ

うな。ベージュのテントをつけたいんです。それに、ベッドルームの向こうにはライブラリーが

欲しいんです。書棚の扉は壁のように閉じられるようにして。そしてさっきも言いましたが、ヘ

ッドボードが壁になっていて、そこに素敵なクラシカルな雰囲気が出せるように天蓋カーテンも

つけたいんです」りりこはしゃべりながらまた壁を見た。


 「わかりますが、」と言った後に、「できるかどうか」と付け足した。「ルイ15世ルイも

16世もブルボン王家のことも詳しいわけではないんですけどね、歴史のある建物は改装されると

きにそれまで背負ってきた歴史を捨てもするでしょう。でも、ずっとあの場所であのコンコルド

広場を、フランス革命も見て来たんですから、建物に口はないけど、複雑な気持ちになってしま

うんです。たった一度泊まっただけなんですけどね。でも少しでもクリヨンを彷彿とするような

インテリアの要素を取り入れたいんです」「う~ん、なるほどですね、」と営業マンTは空虚な

感じで相槌を打ってから、「その方面でお詳しいようですから、もう少し具体的にするために、

画像とか、切り抜き写真みたいなものはありませんか?なんなら、簡単な絵を描いて頂けたらあ

りがたいです」と言った。それを聞いて、りりこは顔をほころばせた。


               


 「今はもう絵なんて描けませんが、その絵ならその壁にありますよ」「えっ、そうですか?」

「ええ、もうずっと前から」「ずっと前から?」「その壁の左下に飾ってあるスケッチです」営

業マンTはぐるっと体を回して壁を見渡した。


 「ん?そんなもの、ありましたっけ?」「ええ、先日、ちょっとご相談に寄った時にそのスケ

ッチを見つけて」りりこは指さすと、Tはさらに30度ほど体をねじらせた。


               


 「あのベージュのカーテンが庭に面している窓に掛かっている、そう、それです。まだ掛けて

あったのがとてもうれしくて。やっぱり私の一番好きなベッドルームのイメージなんだと、この

間、そう思いました」Tは「はい、はい、これですね」と言うと絵の傍に歩いて行った。


 りりこは、「クリヨンが1986年の改装をしてからちょうど30年ですよね。その時はソニア・

リキエルがデザイナーとして改装に加わったそうですけど、私はあの雰囲気がとても好きで、で

も、きっと変わるでしょうから、だから私の部屋にそのイメージのかけらを残しておきたいな、

なんて思って」そう言うと小さく笑った。


               


 「わかりました。これは人気のスタイルです。さすがですね」とTは胸を張ったので、背広の

ボタンははち切れそうになった。


 りりこは恥ずかしそうな口調で「あれは私のスケッチでなんです」と言ってから、「まだ掛け

てあったからこちらにお願いしたわけなんです。16年前、ここでアルバイト職員として働いてい

た時に描いた私のスケッチでなんです。今は全然違う仕事なので、なんだかその絵が急に愛おし

くなって。かつては、その絵は上司に一蹴されましたから、余計にね」と、懐かしげな微笑みを

浮かべて、Tの驚いた顔に答えた。



    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 
 クリヨンのエンブレムはきっと変わらないとおもいますが、
 4つ星、5星、パラス、ホテル、レストランが格付けの
 星を維持、獲得するための戦いは壮絶ですね。
 今後、日本もそうなるのでしょうか?
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。リサコラムアーカイブスです。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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