MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載317回
      本日のオードブル

AAA


第3回


群青色のじゅうたん


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト

     
 「玄関からまっすぐ五段登ると、薄緑色とうぐいす色の
カーテンをかけた窓はあります。そこには薄い水色のレースのバルーンシェードも垂らしています。
裾には群青色のボンボンのついたトリムを付けました。
その正面の窓の左右には明かり取りの細長い窓ふたつ。
シルバーグレーに群青色の額縁の付いたカーテンと
ハーブ色のプレーンなシェードを掛けています。シェードには抹茶色のテープも縫いつけてみました。
さらに右に折れて少し螺旋を描いて登ると私の部屋です。
群青色のじゅうたんの家には幸運が舞い込むなんて、
迷信でしょうか?私は、いいえ、信じております」
 
      
  







群青色のじゅうたん




日曜の朝6時、アーケードの中にある朝市が開く。「ランドリー・

モモコ」から横断歩道を渡ってすぐのところにあるアーケード街とは

言えないくらいの小さな商店街だが、日曜の朝市には何か新鮮な掘り

出し物はないかと大勢の早起きたちでにぎわう。



 桃子もその一人で、しかし、買い物は決まっている。ワカメなどの

乾物、葉野菜、牛乳、チーズ、納豆や豆腐などのたんぱく源を少し。

ジャガイモに、にんじんなどのイモ類、根菜類は最近買う必要もなく

なった。それは、ここ3年ばかり、ある顧客から毎週送られてくるも

ので十分だったから。それも洗濯物と一緒に。


 しかし、この日曜は珍しいことに1枚の封書と写真も同封されてい

た。その送り主は麻美と言った。その野菜のおまけ付き洗濯物の宅配

便は毎週日曜日の朝9時に桃子の元に届く。日曜の定期便はもう15

年にもなっていた。


 桃子は日曜の朝市で1週間分の食料品を買いに行き、野菜を洗い簡

単に下ごしらえをすると、新鮮なトマトとジャガイモとチーズで野菜

サンドを作る。熱いコーヒーと一緒に朝食を済ませると、後片付けを

して7時半にはいつも通り「ランドリー・モモコ」の店を開ける。日

曜は慌ただしい。朝市で買い物をした買い物客は桃子の店にも流れて

来て、開店と同時に忙しくなる。



               



 桃子のクリーニング店は桃子ひとりで切り盛りしているため、洗濯

物の引き取りから、洗い、プレス、そして引き渡しまで全部自分ひと

りでこなさなければならない。日曜はさらに宅配で届く洗濯物をその

日一日で仕上げて、翌日、宅配便で顧客の元に送り返すという仕事も

加わる。


 送り主の麻美は1年の始めに桃子の口座に20万円を振り込む。桃

子はその前払いの20万円から、毎回、計算書をつけて、クリーニン

グ済みの服を送り返す。毎年少しずつ残金は出るけれど、麻美はその

残金を繰り越すことを拒否し続けている。そのため、桃子は毎年、そ

れを別の口座に移し替える。麻美は桃子の腕を信じてその15年目も

同じ”信用取引”を続けている。



               



 先週は日曜の定期便で懐かしい洗濯物が届いた。15年前に1度だ

け洗濯した麻美のアオザイだった。薄紫色の絹のアオザイは裾に深い

スリットの入っている上着とのパンツスーツのようなもので、すべて

オーダーメード。その薄紫とところどころ赤紫を帯びた美しい姿形の

ままで15年前の新品は桃子の手にゆだねられた。すぐに台の上に広

げると薄紫のアオザイの15年をその年月の重なり合いのひとつひと

つまで拾い上げるように入念に汚れをチェックした。しみも汚れもな

かったが弱粘着のローラーを軽く掛けるとパンツの裾にはかなりの青

いほこりのよう物が付着しているのに気付いた。桃子はこのスリムな

アオザイを着こなせる体型を保っている長い髪をした麻美の美しい姿

を想像した。きっと15年ぶりに着たのだろう。



               



 15年は52回の日曜日を15回くり返した先にあった。その先の

15年も、52回の日曜日を15回繰り返すことでやって来るだろう

と桃子はいつも思う。友人たちはみな就職し、結婚し、そして親にな

った。きっと麻美も新しい生活を始めたことだろう。そのアオザイは

麻美の学生時代、海外旅行先で買ったものだと聞いた。一人旅を好む

彼女は社会人になるとすぐに海外勤務になり、それからまた戻って来

ては転勤を繰り返し、それでも戻って来てからはずっと桃子の元に

洗濯物を送り続けて来た。しかし、麻美は仕事を始めてからは、もっ

ぱらシーツやベッドリネン、そしてスーツやジャケット類を送って来

るだけでドレッシーなワンピースやドレスのようなものは全くなかっ

た。そこで桃子は15年前に、麻美にスーツを送り返す特別なパッケ

ージを作っていた。ハンガーにかけて宅配する宅配業者を見つけてそ

の特別仕様のパッケージに入れて、麻美に送り返せるようにと。


 その木曜日、桃子は一大決心をした。桃子の一大決心というのは、

そうそうないことで、だから本当に恐ろしい気持ちもした。でも桃子

は不思議なことに、何か危険なものを予感できるそんな特殊な力を

持っていて、その動かしがたい気持ちは、どうしても決断せざるを得

なかった。



               



 薄紫色のアオザイの袖とパンツの先端は赤紫を帯びていて、その色

合いは貴重な蘭を思わせた。慎重に洗いを終えるとアイロンをかけ、

裾をほどくと、桃子は思い切って3cmほど裾をカットした。そして

そのカットした細い生地にまた丁寧に折り目をつけると部屋の隅にあ

るミシンの前に腰かけた。そして、赤紫の部分を筒縫いして、ゴムを

通し、シルクの赤紫の髪飾りを2つ作った。それを小さな箱に入れる

とアオザイと一緒にハンガーにつるして丁寧に梱包し、夕方麻美の元

に送った。



 そして次の日曜日の今日、桃子はいつものように6時に始まる朝市

に行き、野菜と果物、豆腐に、チーズに牛乳を買って、通りを渡って

クリーニング店兼自宅に戻った。そしていつものように新鮮な野菜

サンドを食べて、店を開け、そして、いつものように店内の接客に追

われた。ようやく一段落した午前9時、宅配業者はいつものように麻

美の洗濯物を届けに来た。中には、淡いピンクやモスグリーンやシル

バーグレーのアオザイが5枚も入っていて、大きな梨数個とともに届

けられた。そして、封筒には写真1枚と短い手紙も添えてあった。


「桃子さん、螺旋階段のある家を持つことができました。ずっと私の

夢だったんです。その階段には群青色のじゅうたんを貼って、休日は

アオザイを着て家で過ごすことが!でも、お知らせする前に桃子さん

にはわかってしまったようですね」



            



 写真には素敵な広い家と群青色のじゅうたんのらせん階段と、そし

て部屋履きを履いて上る薄紫のアオザイを来た麻美の後ろ姿が写って

いる。桃子は写真の1点をじっと見つめると、ほっと胸を撫で下ろし

た。


「これからは、主人のスーツも送りますので、どうかよろしくお願い

致します。 麻美 



              



 
p.s. でも、さすが桃子さんですね!これでパンツの裾を踏まずに

済みます。それに、この赤紫の髪留めもとても気に入っています。


ほんとうに、ほんとうに、ありがとう。感謝しています」





           





                                                   


  「リサコラムの部屋」は毎週火曜日連載です。

  なお、「リサコラム」は変わらず、毎週月曜日連載です。



バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

どうかご了承くださいますように。








シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.