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リサコラム
連載319回
      本日のオードブル

AAA


第5回


幸せな召使い


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト

     
 ゴージャスなお家に住む方法

  1.その家に生まれる。
  2.その家の家族になる。
  3.その家の住み込みの執事かお手伝いになる。
  4.自分の家をゴージャスにする。
 

 
      
  





幸せな召使い


 

「前略 モモちゃんお元気ですか?ご無沙汰しております。

ハナです。 早く手紙をと思いながら、日一日と過ぎ、そして
1年に

もなってしまいました。本当にご迷惑をおかけいたしました。実を言

いますと、1年前までとは状況が全然変わってしまったのです。隣県

のことだから桃子さんの耳には届いてはいないかと思いますが、実は

谷岡の家は1年前、急に売却され、薫子さんもダンナ様のいるロンド

ンに移住されたのです....


 手紙の送り主は、顧客の谷岡薫子の家の住込みお手伝いの“ハナ”

という30代の女性だった。


 「それで、私も含めてお手伝い、庭師、執事迄全員解雇させられて

しまいました。きっとびっくりするかとは思いますが、でも、今は、

海外を飛び回るような仕事をしています。それで、ずっとお預けした

ままになっている薫子さんのお洋服は、処分して頂けないかというこ

とです。本人から「きちんとお礼を申し上げるべきところですが、こ

のような無礼をお許しくださいますように」との伝言です。あの3年

間はモモちゃんのところで愚痴をこぼすことが唯一のストレス解消で

した。本当に私の話しを聞いてもらってありがとう。

 いつかまたモモちゃんのお店にお洗濯物を出しに行きます。

 それまでお元気で。

                      草々 ハナより 」


 ハナは毎週水曜の午後、布袋に入れた洗濯物を自分の小さな車で運

んでくる。そして先週出したものを引き取り、残りの1日と半分をこ

の街の自宅で過ごし、また金曜日の朝、隣県の谷岡の家に戻るという

生活をしていた。彼女はその習慣をずっと3年続けていた。



              



 しかし1年前から、急に音沙汰なくなり、預かっていたたくさんの

衣装もそのままになっていた。高級なシルクのワンピースやサテンの

ブラウス、ウールのスーツ、カシミヤのジャケットなどなどは、長い

間そのままにしていると変色を起こすものが多かったので、桃子は1

ヶ月点検と称している点検を3週間点検に短縮して、服のコンディシ

ョンを保ってきた。


 薫子にはもちろん面識もなく、召使いのハナから聞いた話は他言無

用だと口止めをされていたから、桃子はそれをずっと律儀に守ってき

た。しかし毎週水曜の午後のゴシップタイムを桃子は心ひそかに楽し

みにしていた。“ハナ”はあだ名のようだったけれど、ハナはそう呼

ばれるのを好んだ。


 ハナいつも大きな布袋をカウンターにどさっと置くと、丸い木の椅

子に小さく華奢な体を丸めて腰かける。さらに靴も脱いでかかとを載

せ、膝を両手で抱え込むと、「ほぉ~」と30秒は続くと思える長い

吐息をつく。やがて洗濯ものを選別する桃子をじっと見ながら、あれ

これと不満を述べ始める。ハナにとって、ランドリー・モモコは唯一

の安息の場所だったらしい。


 桃子はハナの話しを「ほぉ~、ほぉ~」と感嘆の吐息をついてじっ

と聞き続ける。桃子の「ほぉ~、ほぉ~」の回数の増すたびにハナは

調子づいて、ある夜のパーティのゴージャスなメニューから、テーブ

ルのキャンドルの数、ゲストはだれだれで、その人々のゴシップまで

もドラマ仕立てで生き生きと話す。話しながら、「絶対内緒よ!」と

念を押しながらもストレス解消の自慢話はどんどん白熱してゆく。


 ある週末には本場イタリア人シェフがやって来て、100人のガー

デンパーティをやり、また毎年、薫子の誕生日パーティには廊下いっ

ぱいの花束と花かごで埋め尽くされ、ノンアルコールのシャンパンは

玄関先を通る人にまでふるまわれる様子が丸椅子の半径30cmの上

で展開される。ハロウィン、クリスマス、お正月、バレンタインパー

ティなどなど、薫子の家では年間行事がきちんと決められており、

執事の指揮の元、完璧に遂行される。お金持ちの家には世にも稀なこ

とがたくさん起きるものなんだと桃子はいつも驚きながら「ほぉ~」

を繰り返す。


              



 以来、谷岡薫子の家の間取りからインテリアまで、桃子は自分の家

のようによくわかるようになった。


 竹林の中に隠れるように佇む邸宅のモダンな扉を開けると、玄関の

ない長い廊下は左右の蓮池を貫く渡り廊下になっている。しばらくガ

ラス越しに見事な蓮池を左右に見ながら、突き当りのドアに向かう。

桃子はこの蓮池の廊下との優雅な対話をとても好んだ。蓮池は薫子の

父が大事に育ててきたもので、夏はここで“ロータスパーティ“も開

かれる。それも毎週土曜日の夜に、大勢の町の名士を集めて盛大に開

かれていた。池の周りにはキャンドルも灯され、幻想的なリゾートの

夜になる。そして、突き当りのドアの向こう、7mの天井高の広いホ

ールへと桃子は入る。豪奢も控えめな卵型のペンダントライトは天井

から長く光と影を作り出す中で、週末のパーティの宴は盛り上がった。

そしてその後はダンスタイムとなる。さっきまでおとなしくしていた

ゲストの中でダンスの踊れる人々はその日のヒーローとなって喝采と

憧憬と嫉妬をエネルギーに深夜まで踊り続ける。そしてピアノやバイ

オリンの演奏の途切れる午前2時迄続くものらしい。



             



 パーティの話をするとき、ハナは必ず、うんざりした顔で生あくび

をし、桃子の方を見る。桃子はきらきらした目で微笑みを照れ笑いに

して見返す。しかし桃子の一番好きな部屋は薫子の部屋だった。スイ

ートのような作りのベッドルームの半分は薫子の専用リビングで、真

っ白い優美な石膏のレリーフが天井の際にも、壁にも施された真っ白

い空間だった。真っ白いドアから部屋へ入ると、左手にはベランダに

出るフレンチ窓が2つ。中央には青紫の直線の大きなソファが置いて

ある。クラシックな装飾の天井のレリーフや窓やドアの意匠とは反対

に敷き詰めの濃紺のじゅうたんの上にはモダンでシンプルなこげ茶の

テーブル。ベランダ側のフレンチ窓とフレンチ窓の間の白いレリーフ

の壁から突き出たように作りつけられている。そしてシルバーに光る

スチールをぐいと手で曲げて脚にしたようなモダンでスタイリッシュ

な白い皮張りの椅子は薫子のためだけに1脚のみ。


 桃子はハナの説明する薫子の部屋に入り、青紫のソファの横になっ

て、窓から外を眺めたり、お天気のよい日には、バラ園に面した庭に

出るフレンチ窓を開けて、風を感じながらしばらくぼぉ~としてみた

りもする。しかし、この手紙と共に桃子の空想の訪問も終わりを迎え

た。ハナはもうやって来ることはなく、谷岡家もハナによって抹消さ

れてしまったのだから。



              



 夢想家のハナはきっとずっとどこかで
OLを続けながらも新しい家

を作っては壊し、そしてきっと幸せな空想の召使いを続けているはず

だった。桃子はハナのサイズにぴったりの小さな「薫子の服」を自分

のクローゼットに掛け替えながら、もしかして、ハナもクリーニング

店の店主かもとちらっと思った。






                   


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  「リサコラムの部屋」は毎週火曜日連載です。

  なお、「リサコラム」は変わらず、毎週月曜日連載です。



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どうかご了承くださいますように。








シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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