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リサコラム
連載321回
      本日のオードブル

AAA


第7回


ポピーのベッドルーム


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト

     
「えっと、誰かがポピーの大輪のピンクの花を描き、
それを誰かがは空色の上に点々と載せ、
そして、それをまた誰かが、生地にプリントして、
そしてインテリアショップの販売員は
それをベッドスプレッドにして、
裾は半円のスカラップにしますか?と提案して、
枕は背もたれ用とブレックファストピローと
ネックロールピローと、そして、ベッドスカートは
ざっくりした濃紺の無地にブルーグリーンのレースの
2段スカートにして
そして、絵を描き、その通りに作ります。
すると、ラグジュアリーでリュクスなホテルのようなお部屋になるということですね、つまり」


 
      
  





ポピーのベッドルーム





 朝4時半、桃子は、ベッドから起き上がると洗濯場に直行した。

洗濯場の薄い水色の壁には日めくりのカレンダー一つ。その1枚を慎

重にめくった今日の午後は、桃子の人生できっとまたとない一日にな

るはずだった。お迎えの車に乗り、大きなお宅のお茶のご招待に出か

けることになっている。そのため、土曜の午後いっぱいを2軒どなり

のなつみにお願いすることになった。なつみは古着店の店主で、桃子

の顧客でもあり、友人か姉妹のように親しくしている。



 なつみの店に持ち込まれる古着は、週1回桃子の店にやって来る。

それを洗い、プレスし、さらにほころびなどもきちんと直して、なつ

みの店に戻す。桃子の丁寧な仕事のおかげで、新品同様になった古着

は、市場価格のほぼ2倍で売れるため、なつみの店は「高級古着店」

というありがたいレッテルを張られている。桃子の得意とする刺繍の

補修は本来の刺繍より数段よくなって仕上がる。ボタンを付け替えさ

せれば流行のスタイルに変身する。そのため、なつみは桃子に心の中

では非常に感謝している。ただ、心に中だけで。だから、この話を桃

子にされた時、なつみから店番を申し出た。


          


 「モモちゃん、私に任せてよ!」「だって、ナツちゃんのお店、お

休みさせるのはおかしいわよ」「大丈夫よ。看板出しておくから、2

軒どなりの『今日はセレブなクリーニング店、”モモコの店主”のた

めお休みします』ってね」「そんな~」「いいって。そのくらい。モ

モちゃんのおかげで預けたお客さんは自分の服が高く売れるんだから

みんな半日くらいなんとも思わないわよ」カウンターのスツールに腰

かけ、なつみは肘に顎を載せたままで、頭を振った。桃子のおかげで

服が高く売れて、助かっているのよとは言わなかった。「それじゃ、

ほんとに、ありがとう」なつみはうんと頷いた。


 桃子は誘いを断ってももちろんよかったのだがと思いはしたが、な

つみも無理した様子もないし、結局、半日の店番をしてもらうことに

した。そうして水曜の午後4時の早仕舞いの日を除いて、1日も休ま

ずに働く桃子の初のお出かけの日は日めくりに花マークが書かれた。


 お茶に招待した相手は半年前からの顧客で、なつみの紹介でやって

きた。優子さんという、大きな家にお手伝いさんとふたり暮らしの美

しい人だった。彼女はある日、お手伝いさんとやって来て、ベッドリ

ネン一式を一番高級なコースの洗濯に出した。すべて無地の高級なブ

ランドもので桃子はいつになく緊張した。それでも、自分なりに完璧

に仕上げて優子のお手伝いさんに手渡した。それからは毎週、二人は

やって来ては、ベッドリネンや服を洗濯に出しに来た。



            



 そして秋のある日、優子はひとりでやってくると、悲壮な顔で洗濯

ものを桃子に手渡し、それから苦笑いするような表情で、「相談した

いんだけれど」と切り出した。「なんでしょう?」「何かアイデアを

もらえないかなと思って」「私なんかにアイデアなんて」「いえ、桃

子さんだから、何か思いつくはずと思うの」優子はまた恥ずかしそう

な顔で小さく笑いながら、「ポピーが、ああ、犬なんです。その、事

故で亡くなって
..」と言うと、固い椅子に腰かけた。桃子は、ベッド

リネンに犬の毛が付着していることに気づいていた。桃子は必ず、洗

濯物を預かるときに、動物を飼っているかどうかを聞くことにしてい

る。しかし、優子は飼っていないと言っていた。



          



 「8年一緒で。ポピーは私の寝室が大好きで。だから、すごく、悲

しくて。犬ごときと思うでしょ?」「いいえ、そんなことは。お気持

ちはわかります」言った後で、「きっと」と心の中で付け加えた。


「壁に、絵を二つかけていたのよ。ポピーがベッドの後ろに寝転んで

いる写真を引き伸ばしたもの、ふたつね。でも、それを見ているのも

ほんとに辛くなって、それで思いついて、背の高いヘッドボードをつ

けてポピーの写っている部分を隠すことにしたの。布のカバーのつい

たヘッドボードでね。それもしばらくはよかったのだけれど、その隠

した部分にポピーがいることに耐えられなくなって
….桃子さん、ど

うしたらいいと思う?」「はあ~」桃子はごくんと音が聞こえるほど

つばを飲み込むと、しばらく口を開けて黙ったまま、布張りの背の高

いヘッドボードで片隅が隠された寝室の写真とモダンなベッドルーム

を想像していた。



            


★桃子は、そこにあるものをおそらくすべて言うこともできた。一人

掛けのピンクベージュのソファ。濃い青で縁どりされている。パープ

ルがかった洒落た仕上げのナイトテーブルが2台。これはおそらく想

像ではあるけれど。優子のセンスからそんな色のような気がした。



         



 「気分転換なんて言葉はふさわしくないと思いますけれど、ちょっ

と華やかなベッドルームにされたらどうでしょう?花柄とか、そう、

ポピーの柄なんて素敵じゃないです?それに、ヘッドボードで隠れた

ポピーちゃんの写真の部分にポピーの柄を刺繍してあげたら、亡くな

ったポピーちゃんも喜びそうな
今はそんな感じで乗り切られたらど

うでしょう?」優子は表情を和らげて、無言で数回うなずき、同意し

た。それから、布張りのヘッドボードのカバーには、桃子自ら刺繍を

することになった。写真を見せてもらい、懸命に計算した末、ヘッド

ボードで隠された部分の額縁の角もステッチで刺繍し、フェイクな芸

術作品のようなポピーの刺繍になった。



         



 リニューアルしたポピーのベッドルームは大輪のポピーのベッドス

プレッドと、同じ柄のクッション数個、ブルーとオレンジのストライ

プの筒のクッション、濃紺にさらにブルーグリーンの裾フリルのつい

たベッドスカートまで、“ラグジュアリー&リュクス”とタイトルの

つくようなホテルのベッドルームの顔をしていた。桃子は見せられた

写真を見て心から安堵した。そのお礼にと優子は自宅にお茶の誘いを

申し出た。



 桃子は迎えに来た車に乗り込むと、店番をしてくれるなつみに手を

振った。それからシートに納まると、わくわくする気持ちを抑えきれ

ず、優子の家の広い温室もある庭園を思い浮かべた。クリスマスも近

いこの季節はきっと色とりどりの絵具ほどの色で花が咲き乱れている

ことだろう。その庭を眺めながら、素敵なお茶とおいしいお菓子頂け

ると思うと、体の芯から癒される気持ちになった。桃子はシートを乗

り出してまた後ろを振り返ると、なつみはまた大きく手を振った。


 「もしかして、なつみは私を休ませるために
」桃子はどこからど

こまでがなつみの仕業かはわからなかったけれど、ふっと笑みをこぼ

して、そして、ちょっと瞼も熱くなった。





                       





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  「リサコラムの部屋」は毎週火曜日連載です。

  なお、「リサコラム」は変わらず、毎週月曜日連載です。



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どうかご了承くださいますように。








シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

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