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リサコラム
連載322回
      本日のオードブル

AAA


第8回


りんご


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト

     
富と繁栄をもたらす方法

1.暖炉の後ろのネイビーブルーの壁に八角形の鏡。
  富と繁栄をもたらします。
2.テーブルクロスにも、服にもラベンダー色を。
  これも、富と繁栄をもたらします。。
3.さらに、サンタの靴をスツールの下に。
  これにも富と繁栄は入ることでしょう。

 「あら、クロスを引いたら、危ないわよ!」

 大丈夫。クロスは半分に切れています。
 りんごはそのまま。
 繁栄も富も二手に分かれて安泰ですから。

 
      
  






りんご





「りんごが赤くなると医者は青くなる」桃子は八百屋のりんごのかご

の横に、
POPらしき手書きの文字を見つけた。アーケードの八百屋の

店先は道行く人々の足を止める甘酸っぱい匂いでいっぱいのようだ。


 桃子は片手には大きなビニール袋を抱え、それはすでに手に食い込

みつつあり、りんごを買おうか、どうしようかと逡巡しながら、また

「りんごが赤くなると
」に目をやった。それは叔父の口癖でもあ

り、子供時代によく聞かされたものだった。


 母方の弟の叔父は町医者で患者はもちろん常連ばかりであった。



             



 「りんごが赤くなると医者は青くなるって言うけど、モモちゃん、

うちはいつも青くなっているんだな」と冗談を言っては笑った。それ

以来、桃子はりんごを見ると叔父の診療室を思い浮かべるようになっ

ていた。りんごは医者いらずの百薬の長という意味なのだろう。

「ふ~ん、今でも使わるのね」桃子はちょっとうれしくなった。


 りんご6個は小さなピラミッド状に積み重ねられて10かごほどあ

り、紅玉はなどは冬の子供のほっぺのように真っ赤な顔をしている。


 「りんごが赤くなるとクリーニング店も赤くなる」桃子の場合は、

赤くなるくらい忙しくなるという意味だった。しかし、りんごが赤く

なっても今年はなかなか忙しくはならなかった。



            



 この10日前にもこの八百屋の横の店に桃子はやって来ていた。オ

ープンしたてのクリーニング店は真新しい看板をかけ、真新しい内装

で、スタッフはお揃いのジャンパーを着て、お揃いのデニムのGパン

を履いていた。その店のことは先々週、2軒隣りの古着屋のなつみが

古着の洗濯を持ってやって来た時に初めて知った。


 いつものように古着をどさっとカウンターに置くと、なつみはカウ

ンターの前の丸い木の椅子に腰かけて左右のポケットからコーヒーの

缶を2つカウンターに置くなり、「どうお?最近」と聞いてきた。



             



 「最近って?」「なんか、暇みたいだから」桃子はカウンターに置

かれたコーヒーの缶を見た。「そうね、少し暇かも」桃子はにこっと

笑いながらもはにかんだ顔をした。「ねえ、知ってる?」なつみは身

を乗り出した。「何を?」「アーケードの中にできたでしょ?」「何

が?」「『ランドリー・モコ』よ」「ランドリー・モコ?って」「そ

う、モコよ!かなり強敵らしいわよ」「へ~、そうなの?」「モモち

ゃん、そんな平気な顔していていいの?」「だって、どうしようもな

いでしょ」「はあ~、もっと真剣に困った顔しないの?だって、相手

は『ランドリー・モモコ』に挑戦状を突きつけて来た『ランドリー・

モコ』よ!笑っちゃうけどね」「はははっは、真似してるのね」「モ

モちゃん、笑いごとじゃあないのよ。だって、向こうは完全に意識し

ているんだから!それに、スタッフは3人いるし、それに比べたら、

モモちゃんはひとりじゃない!太刀打ちできなくなるわよ」「できる

だけしかどうせできないもの。仕方ないわ」「そんなこと言っている

場合じゃないのよ。だって向こうは洗濯物を全部パソコンで管理して

いるって話よ。ひとりひとりのクローゼットの中身まで知っているっ

てことよ」「そうお?」ほとんど動じない桃子になつみは不安さえ感

じた。



             



 「だって、大変じゃないの!」「大丈夫だから心配しないで。私、

身の程知らずじゃないもの、できる以上の仕事はできないし、たまに

は暇になってもいいかなと思ってたのよ」なつみは呆れた顔で、桃子

を下から眺めた。桃子はあまり気にならなかったものの、やはり、い

つか見に行ってみなくてはと思い始めていた。


 勇気を出して店内に入ると、知らないふりをして持って来た洗濯物

をカウンターに出した。スタッフはテキパキと処理すると、タブレッ

ト端末を出してきて、名前と電話番号を入力させ、精算を済ませた。

丁寧にお辞儀をして、「ありがとうございます」を言うなり、くるり

と後ろを振り向き、桃子の洗濯物を大きなかごに投げ込んだ。桃子は

黙って帰った。


 その次の日も暇だった。桃子はこの際と家中の洗濯物を大きなラン

ドリーで回した。それも終われば、すぐにアイロンにとりかかった。

綿や麻の天然繊維を好む桃子は野球少年がグローブを手に同化させる

ように、アイロンと手を同化させていた。アイロンよりむしろ食器洗

いに面倒くささを感じる。桃子には家中の洗濯物にアイロンをかける

と、その日一日は終了した。


 八百屋の店先でりんごを迷いながら叔父の思い出を反芻していた。

叔父は面白い人で、いつも冗談を飛ばしては、周りを楽しい気分にさ

せるのが得意だった。さらにアイデアマンだった。そんな叔父の姉、

つまり、桃子の母もちょっと変わった人だった。



             


    
 桃子の母は10月になると、家中、隅から隅まで大掃除を始める。

それから、服、カーテン、布ものすべてを洗濯して、アイロンをかけ

終わるとリビングのコーヒーテーブルの上にりんごを高く盛り付け、

そして、飾りだけで役に立っていない年代物の暖炉の上に小さなクリ

スマスツリーを飾り、ニセモノのマキを置いた。そして1か月半も早

いクリスマスはハロウィーンや、勤労感謝の日を待たずに、桃子の家

にやって来た。そして、母は最後に一張羅のドレスに着替える。赤紫

から青紫に変化するグラデーションの裾までのロングドレスは、袖に

白いニセモノのウサギの毛のマフの付きで、それは裾にも、ぐるりと

付いていた。しかし、とても普通の家庭の主婦には似つかわしくはな

かった。



             



 それから、家族族みんなで記念撮影をすると、1か月半前倒しのイ

ヴとクリスマスは次の日には片づけられた。せっかちな母は何事もさ

っさとやる性分で、世間的な常識から逸脱している部分もかなりある

と桃子は思っている。母にとって「めんどう」とは、「早く済ます」

と同義語なのだろう。


 バッグの中から、桃子の店の大きな肩掛けバッグを取り出すと、

『ランドリー・モコ』から引き取って来たビニール袋を中に入れた。


 「この青りんご、ひとかご下さい」



             



 りんごが赤くなる前にクリスマスを終えて、そして絶対に赤くなら

ない青りんごを飾っていた母を思う時、もしかして、母は人一倍、縁

起担ぎをする人なのかもしれないと思った。いつも診療室に青りんご

を置いて『青りんご先生』と呼ばれている叔父はどうしているだろう

か?青く、甘く酸っぱい味を舌の上で桃子は懐かしく思い出していた。






                        






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  「リサコラムの部屋」は毎週火曜日連載です。

  なお、「リサコラム」は変わらず、毎週月曜日連載です。



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どうかご了承くださいますように。








シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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