MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載963回
      本日のオードブル

『もしもあの時、』

第3話

「バラのしわざ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





邸宅の庭を見渡す窓辺。

寄りかかるように

長身のジェントルマンが

手にするのは1輪のバラ。

この時の決め台詞が世界を動かすなんて

あなた、知ってました?



 



第3話  「バラのしわざ」




 「さぁ、もう帰ろうか!」僕はカウンターで眠り込んでいる若い

部下のKの肩を揺り動かした。


            


 歓迎会の2次会の会場、荻窪のキャッシュオンデリバリーのバー

カウンターで、彼は「あぁ~、あぁ」と大あくびをしながら伸びを

すると、スマホを開いて、「マジ、すか?」と言った。これが若い

奴のいつもの返事だ。「昔は上司の話は膝を合わせて真剣に聞いて

いたもんだがね」と、その言葉が口から出る寸前のところで、グラ

スに残った水割りと一緒にぐいっと飲み込んだ。


            


 そんな発言をしようものなら、パワハラだの、モラハラだの、

何ハラだのと言われて、会社から追い出されてしまうかもしれない。

こんな時こそ、沈黙は金なりが得策だろう。まあ、そうは言いうもの

の、自分の趣味を相手に押し付けること自体が間違っているのだろ

う。趣味をしゃべる方は楽しくても、聞いている方は耳障りな弁論

を聞かされているようなものなんだから。


            


 やめだ、やめだ、「さあ、帰るぞ!」私は先に席を立った。キャ

ッシュオンデリバリーの店はいい。自分が飲んだ分だけ払えばいい

のだから。部下の分も払う必要すらない。そう考えれば今の方がか

なり気楽だとは言える。「じゃあ、お先に!」私は名残惜しさを胸

にしまい込んで、その荻窪のバーを出た。


            


 昔の方がよかったなど言い始めれば、それは老人の始まりだ。

わかっている。それでも人は、時代劇の水戸黄門みたいに、スーパー

マンみたいに、最後の最後では上の人間が下の人間に対して、人生

を長く生きながらえてきた証拠のバッジをそびやかして、胸のすく

思いをしたくなるものなのだ。しかし、現実にはそううまくゆくこ

とも、そんな状況にもない。下剋上の世の中は加速しているし、年

季のある人間が自分の娘、息子みたいな若い人間に使われ、あげく

首になることだって常にある。そんな世の中を生きていると、男

だって、自分よりかっこいい男に憧れたくなる。そんな奴をぎゃふ

んと言わせたくなる。女性だっておそらく同様だと思う。憧れがな

ければ人間は成長だってしないのだし…。



                 


 
30年前、この同じ場所にあった、『ベイカー街221B』という

バーでHさんと知り合ったとき、シャーロック・ホームズとはつま

り、Hさんを含めすべてのシャーロッキアンにとって、今で言うとこ

ろの“推し”、つまり、アイドルなのだということがわかった。Hさん

は初めて会った僕に、シャーロック・ホームズのことをこのように紹

介した。そうだ、説明ではなく、彼の“推し”を紹介したのだった。


            


 「生年月日は不詳。身長18cm以上、極めて瘦せているため、

実際よりずいぶん背が高く見えた。バラ色のほほの乗った高いほほ

骨、青白い額。その額は広く、禿げ上がってはいたが、その奥には

コンピューターをも凌ぐ脳細胞が詰まっており、鷲鼻の両脇に落ち

くぼんだ目の灰色の瞳から時折、鋭い眼光が放たれる。固く1文字

に結ばれた薄い唇は強靭な意志を表していて、」そう言う、Hさん

のほほは次第に赤らんできていた。そして、「ま、かっこよすぎだ

よ!」とまとめた。


            


 「でも、外見だけじゃない、変装の達人であり、腰の曲がった老

人にだってなれる特技を持っているし、ボクシング、空手、柔術の

心得もあり、年をとっても体力、知力に衰えはなく、鋭い観察眼と

コンピューターのような記憶容量を持ち、必要なものを瞬時に抜き

出すことができた。常に冷静沈着で鉄のような精神と鋼のような体

を併せ持つ私立探偵は、しかし、女性には一切心を動かされない。


            


 彼の趣味?仕事以外の趣味はなんだろう?パイプをくゆらすこと

か?掃除や整理整頓が趣味ではないのはわかる。常にホームズの部

屋は散らかっているし、そこら中に新聞が散乱し、ペルシャスリッ

パの先にタバコを入れたりするんだから尋常な行動とは言えない

が、そこにこそ愛すべき欠点がある。そして、もう一つの欠点が

麻薬だ。ドクター・ワトソンから何度も止めるように注意をされて

も、それだけは止めることができない。コカインが彼の高ぶった

精神を収めてくれるというのだから致し方ない。それは主にどういう

時かと言うと、つまり事件がない時なんだ。彼は事件がないと精神

がおかしくなってしまう。彼のコンピューターは退屈を、使われな

いことをもっとも嫌うからね。さらに、警察を敵に回し、貧しい人

からは金は取らず、王族や裕福な人間からたっぷり報酬を得る正義

の味方みたいなやつだから、一般庶民はもう、架空の人物だなんて

信じたくない、いや、実は実在しているのかも、ほんとに存在して

欲しい、いや、いると信じ込んでしまう。この霧に煙るロンドンの

どこかに…とうとう、メロメロになってホームズの世界に没入して

しまう。


            


 恋、愛など信じないが、事件となれば非常にうまく女性に取り入

ることができる男なら当然、女性にモテモテなはずなのに、極めつ

けの女性には全くの無関心。信用しない、いや、嫌ってさえいる。

機械のように愛情も友情も理解しないようなそんな人間だけど、時

折見せる意外な一面もある。『海軍条約文書』という事件の中で、

ホームズはテーブルの花瓶から1輪のバラを抜き取って、みんなの

前でこうつぶやく。


            


 『バラはなんと美しいんだろう。花の中にこそ神の存在を証明で

きるものがある』とね。そんな文学的な殺し文句を言うんだよ。

そんなところで、また、さらに立ち直れないくらいに、ころっとや

られちゃうんだよ。もう、他は見えない、あなた一筋ってね」


            


 30年前、あのバー、『ベイカー街221B』で、Hさんの紹介

を食い入るように聞いていた僕は、その1年後、バイク乗りの片岡

義男から、シャーロック・ホームズに乗り換えた。そして、ほこり

の匂いが畳に染み込んだ荻窪のアパートの一室で、シャーロック・

ホームズクラブのメンバーに認定された.




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1

『海軍条約文書』は殺人が起きず、

最後は、サプライズで終る平和解決事件。

このバラの決め台詞は、多くのシャーロッキアンににとって

”推し台詞”のひとつ。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年4月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.