MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載964回
      本日のオードブル

『もしもあの時、』

第4話

「クラブ、魅惑の香り」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





暖炉の前に立ち、

体を温めながら、

ひじ掛け椅子をすすめ

久しぶりに会うワトソンに

懐かし気に

話しかけるシャーロック・ホームズ

しかし、

すでに推理は始まっています。



 



第4話  「クラブ、魅惑の香り」




 「クラブ…」なんという魅惑的な響きだろう!私はずっとひとり遊

びが好きでバイクのツーリングも誰かと一緒には気乗りがしなかっ

た。さらに友人と言えるような人間もほとんどいなかった。結婚する

までは仕事に追われ、常に貧乏暮らし。結婚してダブルインカムに

なり、やっと風呂のある部屋に住むことができるようになったもの

の、まだお互いによく理解はできない部分もあった。それでも、

それぞれの生活の仕方やパターンの違いは、僕が妻に合わせるよう

なかたちで折り合いが付けられるまでになった。まぁ、1年目の

離婚の危機はないだろう、とほっと安心していた。しかし、妻とは

元々共通の趣味がなかったために、週末はなんとなく、それぞれ、

別行動を取るようになった。


            


 そんなところにやってきたHさんからの誘いがシャーロック・

ホームズ・クラブというものだった。「クラブにご興味あります

か?イギリスには紳士たちが通う『クラブ』というものが未だに

多数存在し、その種類、レベルは多岐に渡ります。中には秘密組織

的なものもあったりすると言われます」僕はHさんの発音する、

英語のCLUB、クラブという音に謎めいた語感を感じ、そのクラブ

とやらに非常に惹かれてしまった。Hさんは丁寧に優しく教えて

くれたが、僕は下世話な話で本当に恥ずかしかったが、「あの、

入会金とか、年会費とかそんなものが必要なんですよね?」と聞

いた。Hさんは「まぁそうですね」と言った。とたんに僕は空恐ろ

しくなった。○十万円とか、恐ろしい金額を言われるだろうと思い

つつも、勇気をふるって「それでおいくら万円なんでしょうか?」

と恐る恐る尋ねてみた。


            


 すぐにHさんは「5千」と言った。「5千万?」僕はそう言い

なながら、体がわなわなと震えるのを感じた。そして、即座に、

「とんでもない!こんな貧乏な人間ですから、ご辞退させてい

ただきます」と言った。「ちょっと待ってください。5千円で

すよ」と言ってHさんは私の腕を軽くつかんだ。「月ってこと

ですよね?」「いいえ、年間です。」「ああ、そうですか、

びっくりした。でも、よかった」僕はいきなり死んで、いきな

り生き返った気分だった。「5千万円なんて年会費があるわけな

いじゃないですか。そんな悪徳なクラブじゃありませんよ」

「いや、そんな意味じゃ…」私は冷や汗をかいて青くなったり、

赤くなったり、死んだり、生き返ったり、ひとり興奮して、恥

ずかしくなった。


            


 Hさんは両手で私に落ち着くようにと制すると、「シャーロック

の兄のマイクロフトが通っていたディオゲネスクラブをイメージ

されたんでしょう?政財界の大物が所属するような、そんなもの

じゃありません。まぁ好事家の集いのようなものですから、安心

してください」「そうですか、いや、びっくりしたなぁ。5000

と聞いて5千万円かと思っちゃって…」


            


 5千円と聞いて、ロンドンの紳士たちが通ったあのミステリアス

な高貴な香りのイメージは消えてしまったが、30歳にして、

私は知的集団のクラブに入れるのかもと思うと、なんだか、選ばれ

し者の仲間入りをするような気分で高揚した。


            


 「イギリスのクラブは主に排他的で厳格な審査をするものも存在

するようですが、そんなに厳しいものとは違います。ただ、シャー

ロック・ホームズ・クラブに入会するには1つだけ条件があるんで

す」「あ、条件ですか?」「そんなに難しいものではありません。

研究テーマを提出していただくのです」「研究テーマですか?」

「はい。シャーロック・ホームズ・クラブというのは世界的な組織

でして、本部はロンドンのベイカー・ストリートにあります。

そこのシャーロック・ホームズ・クラブに入会するには欠員待ちで

3年から15年かかるときもあるようです。日本支部もクラブ員に

なるには研究テーマを提出して、他のクラブ員から承認を得られれ

ば入会が認められるのです。まずはその研究テーマを見つけていた

だく必要があります」いきなり研究テーマと言われても、まだシャ

ーロック・ホームズ関係の本を1冊と、『シャーロック・ホームズ

の冒険』を1冊読んだきりで、すぐに思いつかなかった。


            


 「考えられるテーマはほぼ出し尽くされている感はありますが、

あまり重複しないことが条件です。例えば、シャーロック・ホーム

ズの中の登場人物、事件の矛盾点、当時のロンドン、ヴィクトリア

朝について、コナン・ドイルに関するものは、クラブ員の中には翻

訳家の方も多数いますので、かなり踏み込んだ詳細な研究がなされ

ています。そういうわけですから、他のクラブ員の興味を引くよう

な珍しいものでなければ、入会は難しいかもしれません」Hさんは

そう言うと「まぁ、ごゆっくり考えていただければ結構ですよ」と

言った。


            


 私は難しいと言われて、かえって意欲を掻き立てられた。繁栄を

謳歌していたイギリス、ロンドン、同時に格差社会ゆえの犯罪も増

加した街には馬車に代わり車が走り始める。ガス燈から電気へとエ

ネルギーの大転換期を迎えていた中で、人々がどう生きてきたの

か、とても興味があった。だからといって、今更、サラリーマンの

僕に何ができるのか?…研究者や翻訳家、大学教授なども所属する

というクラブの中にあって、僕にどんな研究ができるのか?私はH

さんと別れてから、1週間、ずっと真剣に考えたが、アイディアが

浮かばなかった。頭の先からつま先まで研究され尽くされている

ようなシャーロック・ホームズの物語を一体どう切り刻めば研究テー

マが出てくるのか?私はため息交じりにそうつぶやくと大学ノート

を開いてそこに思いつく限りを書き出してみた。しかし、どれも、

すでに誰かが研究テーマとして選んでいるような気がした。しかし

切り刻まれているからこそ、もしかしたら、どこかに何かニッチな

部分があるかもしれない。そして3時間かけて、苦肉の策でひねり

出したテーマは『自らがシャーロック・ホームズになるための方

法論』だった。私はテーマを書いた紙を封筒に入れ、そして教え

られた事務局に郵便切手を貼って投函した。きっと一笑にふされ

るだろう。まさかこんな馬鹿げたこと言う奴はいないに決まって

る。


            


 それから2週間後、たった3行だけ書かれたA4の紙が事務局

から送られてきた。「貴殿をシャーロック・ホームズ・クラブ員と

して認定します。実に面白いテーマで、全会一致で承認されまし

た。よって、ここに、その会員証を同封させていただきます」

そして、シャーロック・ホームズ・クラブ会合の日程が明記さ

れていた。


           


 私はそれ以来、バー・ベイカー街221にほど近いその荻窪の

アパートの一室に足しげく通うクラブ員になってしまった。それ

が僕の人生の第2章の始まりになった。


            


 「クラブ…」ああ、なんという魅惑的な響きだろう





   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


シャーロック・ホームズ自身はクラブなどに

所属するようなタイプではなかったはずです。

もちろん、研究者は色々と憶測をめぐらすものですが。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年4月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.