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リサコラム
連載987回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第2話

「ミスター素数」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



高級そうなホテルの部屋。

淡いブルーの壁の前に大きなベッドが1台、

その手前にアームチエアが2脚、

オーバルのテーブルを挟んで

並んでいます

ブルーのバラの花柄のカーテン、

ネイビーブルーの絨毯まで

ブルー&ホワイトで統一されています。

さて、どんな人が

コーディネートしたのでしょうか?


 



第2話 「ミスター素数」



 とある高級ホテルの奥まった客室のひとつのドアの手前で、髪を

撫でつけた黒いスーツ姿の男性がドアをごく軽く、「コンコン」と

2回
ノックした。返事がないのを確認すると、カードキーをドアに

かざしてから、そっと中に入った。もちろん、中には誰もいないは

ずだった。


            


 すぐに黒光りする
靴を脱ぐと、ドアの脇にきちんと並べて置き、

ポケットから白い手袋を出した。ゆっくりその手にはめると、ひと

つ、咳払いをしてから、「さあ!」と言った。


            


 彼はまず窓際にゆき、カーテンが正常に開くかどうかのテストをし

た。当然のように、ドレープカーテンもレースカーンもスムーズに

開け閉めができた。次に、ベッド脇のサイドテーブルの引き出しを

引いて、その引き具合と中の備品のチェックをした。もちろん、不

備はない。それからナイトテーブルの上の微かなほこりをその白い

手袋でそっと吸い取るかのように、さっと撫でた。もちろん目に見

えるようなほこりなどありはしない。天井も壁もベッドも家具もす

べて、つい、2時間前に完璧な清掃で微細なホコリまで取り去った

後だった。さらにそれとは判別できないくらいに自然に壁に仕込ま

れた空気清浄機が、微細なほこりまで吸い取り、それを現在のとこ

ろ最高精度を持つフィルターを通してこの空気の中に流し込んでい

るのだから。


            


 彼はまたベッドが置かれた正面の壁から7歩、約5.1m離れた

場所から全体を眺めた。彼は自分の歩幅を73cmと知っているた

め、いや、訓練によって、73cmに調整をしたため、歩幅でほぼ

正確に色々な距離を測ることができた。


            


 次に彼は腰をかがめ、目線を枕の位置に置いて眺めてみた。最前

列のブレックファーストピローの真ん中のものがおそらく2度ほど

右に傾いていると思った。彼はまた6歩でベッドに近寄ると問題の

ピローのカバーの右耳あたりを3ミリほど持ち上げた。そしてまた

先程と同じ部屋の位置に戻ると、次に視線の先を一番奥の背もたれ

の2つ枕に置いた。


            


 2つの大きな枕はカバーの先端をわずかに重なり合わせている。

この重なりは最大で37mmと決められている。これは、男性が

ホテルのマネージャーという職についた13年前に決まった。

それは、彼が37、73という数を好んでいるためで、それらの

数字は何かの寸法を決める時によすがとされた。さらに言えば、

37、73を好む理由の1つには3と7を足して10になるとい

う、10月10日生まれの彼にとってのラッキーナンバーであり

そして、37も73も自分と1以外の正の整数で割り切れない

素数であるという事だった。そんな素数好きの彼は、“ミスター

素数”と他のスタッフから呼ばれていることを知ってはいたが、

知らぬふりを通していた。


            


 彼はその背もたれの枕が互いに37mmのミリ重なり合ってい

ることを目視によって確認したが、左右のヘッドボードの柱に

37mm寄りかかっているかどうかを定規で確認しに行った。

左の枕方が4ミリ外に寄っているようだった。彼はすぐに左の

枕を内側にゆっくり押した。重なりが37mmと決まっている

以上、中心に寄せることはできない。だから、枕の真ん中から

3分の2くらいの場所の内側をほんの少し指で押して調整した。


            


 その上でまた、定位置に戻り、ベッドの手前に2脚並んだアー

ムチェアの検証に入った。この椅子の上にはクッション背中の凹

みに合わせて作ったロール状のクッションが各1個ずつ置いてあ

るが、椅子の向きの対してまっすぐに置くのではなく、7度ずら

して中央に押した位置に置かれている。この7度という角度が最

も品のある斜め角度であることを彼はホテルマン歴37年の経験

により認識していた。さらに、この2脚の椅子の位置はテーブル

に対して左右対象ではなかった。片方が正面の壁に対して11度

もう片方が13度の傾きに置かれていた。この左右対象でない

理由は、人間自体が完全には左右対称ではないことによる。すべ

てが完璧に左右対照であると、人は気づまりを感じるという。そ

れもホテルマン37年の歴史の中で体得したことだった。付け加

えれば、2脚の椅子の間に置かれた楕円のオーバルのテーブルは

直径が素数である、73cmの特注のサイズに今回、作り直され

た。


            


 部屋の中心に敷かれたネイビーブルーの絨毯の中心にはホテル

のロゴがデザインされているが、その周りを白い楕円の破線が取

り囲んでいる。その破線を37倍大きくした2本の白い破線で絨毯

の周囲が縁取りされている。その2本の破線の間隔は17cmの

やはり素数で、その中にさらにブルーのバラの花柄が17cm間

隔に配置されていた。17も素数であり、7年前のホテルのリニ

ューアルの際に新たにデザインされたもので、彼の意見が採用さ

れた。今回、そのバラの花と同じデザインで、新たに白いカーテ

ンにブルーのバラの刺繍を施すことになった。そのブルーのバラ

の色にぴったり合わせた色でシルクサテンのベッドスプレッドも

新調された。


           


 彼は腕時計を見た。午後6時30分だった。


            


 
このホテルのマネージャーとして、これまででたくさんのさら

にいろんなゲストを迎え入れてきたが、今日のゲストももちろん

これまでのゲストと同じ位のVIPだった。広すぎる部屋は落ち

着かない、スイートではダメ。セミスイートがいい。これが彼女

の希望だったが、さらに最近の彼女の好みをSNSも駆使して全

て調べ上げ、彼女の好みのインテリアに仕上げた。最も良い向き

の最も景色の良い、そして最も新しい部屋を選び、1か月でリフ

ォームをやり終えた。


            


 ミスター素数と呼ばれるマネージャーは、今回もデザインを決

める数字にこのように素数を使い、1週間前に部屋を完成させる

予定を組み、完璧な正確さで、遂行させた。その完璧主義の性格

は他のスタッフから尊敬の念と侮蔑の念をほぼ半分ずつ得ていた

が、実はそれに加えて、彼にはある利点とも言える部分が人知れ

ずあった。


            


 今日の予定はそのプリンセスの車が午後7時ちょうどに裏玄関

に到着し、ドアマン、ベルボーイが出迎え、それを受けて、コン

シェルジュが彼に連絡するために、この部屋をノックする。それ

を合図に、彼はこの部屋のドアの前で出迎えることになっている

。その時間を7時7分と計算していた。


            


 午後6時37分、予定より30分も早く、「トン、トン」と軽

いノックの音がセミスイートの部屋に響き渡った。彼がドアを開

けると、そこには、うなだれた表情のコンシェルジュが立ってい

た。


            


 「マネージャー、残念なことにプリンセスはご都合が悪くな

り、お見えになられないそうです。お部屋代は支払いますとのこ

とですが、しかし、こんなぎりぎりになって、今まで、こんなに

ご努力なさったのに…まあ、わがままなプリンセスのことですか

ら、仕方ないですけど、まことに残念至極です」コンシェルジュ

はむくれた表情でそう言うと、大きなため息をついてから、大股

で立ち去った。


            


 ミスター素数はゆっくりと部屋を1周すると、満足げな笑みを

浮かべ、静かに部屋を出た。廊下ですれ違ったハウスキーピン

グに笑顔で挨拶をすると、いつも通りの軽やかな足取りで、

廊下を歩き去った。


            


 完璧主義の彼の持つもう一つの利点とは、決して悔やまない

ということだった



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


ミスター素数、素数好きな私の憧れの人間像です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年10月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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