MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載990回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第5話

「最後のノック」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




街灯に照らし出された

広い公園の夜の道を行く

1台のフランス車。

落葉の季節は

ロマンチックと、

物悲しさが同居する。



 



第5話 「最後のノック」



 長い眠りから覚めるように、木々は芽吹き、蝶がふ化するよう

に、その柔らかい葉を強く濃い色に成長させるとき、1回目の

ノックの音がして、清掃員がやって来た。春が来た合図だ。


            


 まもなく公園の地面には、太陽の光が穏やかに降り注ぐように

なり、昼も夜も人でいっぱいになる。走る人、歩く人、ぶらぶら

散歩する人、自転車で自宅と勤務先までまっしぐらに通り抜ける人

もいる。あちこちで、地面に敷物を敷いて、寝転んだり、飲んだり

食べたり、歌を歌ったり、楽器を演奏したり、時々は野外コンサー

トがこの公園の中のあちらこちらで始まる。そうして、木々の影が

次第に濃くなり、地面も薄暗くなり始めると、さらに、人の数は増

える。


            


 そろそろ、2回目のノックの音がする頃だ。これを初夏と人は呼ぶ。


            


 子供たちは、男の子も女の子も一緒に駆け回わり、ボール蹴りを

し、バドミントンで歓声をあげる。もっと小さな子供たちはぬいぐる

みを抱えておままごとをする。さらに日が長くなり、夜が短くなる

と、昼間の人の数は次第に減り始め、夜の人の数が増えてくる。


            


 3度目のノックの音は夏が来た合図だ。そんな暑い最中でも、

子供たちは相変わらずサッカーの真似事をしたり、飛んだり跳ねた

りして、大人にとっては別に楽しくもないようなことで嬉々として

遊んでいる。大人は監視しながら、時々叱りつけ、愛想笑いをし、

ついには、疲れ切った表情で子供の手を引いて家に帰る。奇声を

あげて走り回る人間を子供と呼び、苦しい表情で汗だくになって走

る人間を大人という。おそらくそんな分け方は正しいだろう。大人

は楽しいから毎日、走っているわけでもない。それなら、なぜ、走

っているのかと言えば、どんなに走っても行き着くことがないから

ではないかと私は思う。走った先にたどり付きたい場所がないのだ。

だから、毎日、同じ場所をぐるぐる走り回るのだと思う。その意

味のないことでも、大いなる意味を持たせることができる。それは

エクササイズという意味だ。しかし、エクササイズという目的だ

けで走り続ける人もやがて飽きる時がくる。それは数日だったり、

数週間だったり、数か月、数年だったり、人によるが、その日は

悲しいかな、必ずやってくる。あの黄色いキャップの男性は、最近

見かけないなと思ったら、もう再び、やって来ることはない。


            


 そして、日が長くなり、陽射しも強烈になり、木陰で休む人が増

えてくると、歩くだけでも容易ではない、猛暑の夏になる。それで

も走る人はいる。それをアスリートと呼んでいる。特殊な細胞でで

きているらしく、汗を飛ばしながら走るという特別な能力を持って

いる。それ以外の人は、傘は帽子で防護して、ハンカチを手に、ゆ

っくり歩く。走りにこなくなった人の多くは、走るのをやめたか、

あるいは、エアコンの効いたジムでランニングマシンの上で走って

いるのだろう。


            


 そんな夏の晩に、たったひとりで、散歩に来る人がいた。彼女は

必ず午後7時半頃、小さなリュックを抱えて公園の正門からやって

来る。散歩と言っても、軽いランニングくらいの早いスピードで、

そのスニーカーのたてる小気味よい足音を聞くだけで、ああ、あの

彼女がやって来たとわかる。公園の周囲は1周、2キロだが、彼女

はそれを3周する。つまり毎日、6キロを歩いているということに

なる。そのストライドは大きく、規則正しく、パス、パスという耳

に心地よい足音がする度にショートカットの髪がぱふぱふと、規則

正しく上下に動く。常に変わらない淡々とした表情で、どしゃぶり

以外、雨の日でも合羽を頭からかぶって必ずやって来た。気温35度

の熱帯夜でも習慣を崩すことはなかった。私は彼女の生活を想像して

みた。同じ時間に規則正しく同じ行動をとる人間は間違いなくきちん

とした暮らしをしているに違いない。しかし、彼女の行動から想像

できるのはそれだけだった。1月後、彼女の1周の時間が短くなって

いることに私は気づいた。彼女の肉体は間違いなく、鍛えられてきて

いるに違いない。


            


 そして、別のある日、同じように速足の散歩をする、今まで見た

ことのない男性がやってきた。彼は彼女より早いスピードで2周する

と、3周目で彼女を追い越した。それからさらにもう1周して公園

を出た。そして、ほぼ、同じ時間に二人は公園を出て反対方向に歩

き去って行った。


            


 彼がそのルーティーンを始めてから、1月が経ち、やっと涼しい

風が吹くようになったころだった。彼女が涼風に短い髪を揺らしな

がら歩いていると、彼は3周目で彼女を周回遅れにした。すると、

その瞬間、彼女はちらっと彼の顔を見た。しかし、彼は気にするこ

となく、歩き去った。そして、二人がやってくる時間が、日が落ち

て2時間後くらいになると、ふたりともさらにペースが速くなって

いた。地面にはまばらな赤や黄色、オレンジの絨毯が敷かれるよう

になった。そして、さらにランニングの速さに早くなった頃には、

地面の落ち葉の絨毯が多少の厚みを増した。


            


 そして、清掃員によって、地面がきれいに掃き清められるように

なった。ああ、秋の合図だ。あの、私が大好きで大嫌いな秋だ。

人は秋に様々なものをくっつけて、賛美する。芸術、読書、美食、

スポーツ、しかし、それは出会いと別れの秋でもある。その日、

とうとう、二人は出会ってしまった。それから2週間後、私は、

公園の外の車道に止まった1台の黄身がったクリーム色のフラン

ス車に彼女が乗り込み、そしてゆっくり走り去るのを目撃した。


 人は出会い、そして、必ず別れる。私はここで様々なドラマを

眺めて来たからよく知っている。二人はもう、やって来ないだろ

う。


            


 私は最後のあのノックの音だけは聞きたくなかった。しかし、

それは突然にやって来た。その晩、私の寿命もとうとう尽きて

しまった。多くの人々の安全とロマンスのために明るく照らして

きたのだが、これで、もうお別れだ。私の代わりはいくらでもい

る。警備員が翌日、報告をあげると、すぐに、街灯のランプの扉

がコンコンとノックされた。そして、
電球という私は廃棄される

ことになった。


 秋とは物悲しいという形容詞が最も似合うと私は思っている



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


ロマンチックな気分のい人と、非ロマンチックな気分の人

それは、裏と表のように存在するようです。

電球のように明るく照らす人と

消えゆく人もまたしかり。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年10月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.